つぐみのおっぱいが大きい方がいいと言うプレイヤーは『ガルパ』の文芸的な読解ができていない

 5月27日、アプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』において、公式の告知として《羽沢つぐみの一部のLive2Dキャラクターの胴体部分において、想定と異なる箇所がございましたため、近日中に修正を予定しております。》なることが発表されました。この修正は、つまるところ、つぐみのおっぱいを平坦に変更するものでした。制服の立ち絵では、胸部の影の処理が、美竹蘭および青葉モカから、湊友希那および宇田川巴と同じものになりました。
 この変更につき、ナンセンスとして笑われるユーザー、または不条理として憤られるユーザーがいらっしゃいます。ですが、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』のシナリオを正確に読解していれば、この変更が無意味でないことは御理解いただけるはずでございます。なぜ、つぐみのおっぱいは平坦でなければならないのか。一介のユーザーごときが語るのは口幅ったいと思われるかもしれませんが、1.氷川紗夜というキャラクターとの関係性 2.羽沢つぐみというキャラクターの人物造型 の2点から解説させていただきたく存じます。

1.氷川紗夜というキャラクターとの関係性
 氷川紗夜と羽沢つぐみの関係性は、2017年10月31日配信のイベントストーリー『ちぐはぐ!?おかしな お菓子教室』を起点にはじまりました。両者の関係性はイベントストーリー、エピソード、ラウンジなどで描かれ、2019年4月10日配信のイベントストーリー『めぐる季節、はじまりの空』では直接、言及される※に至りました。(※「(モカ)去年はあの紗夜さんと真っ先に仲良くなってたしねー」)
 なぜ、この両者が親しくなったのでしょうか。ここで厚顔無恥にも、両者がいわゆるカップリングにおいて余っていたという作外の事情から説明することは可能でございます。しかしながら、そうした外在的な理由は、作中の事情とは無関係でございます。したがって、いずれにせよ作中の事情から説明しなければなりません。
 まず、氷川紗夜というキャラクターの特性から確認致したく存じます。それは、第1に性格描写として規範意識が強く、他者とのコミュニケーションを不得手としていること。第2に人間関係において妹である氷川日菜に劣等感を抱いていること、でございます。これは《Roselia》のバンドストーリー第1章において明確にされています。
 この性格はしばしば作中で他のキャラクターから《真面目》と表現されております。しかしながら、この性格はそうした意識に留まらず、アスペルガー症候群非言語性学習障害と言えるものでございます。なお、フィクションのキャラクターについて自閉症アスペルガー症候群または学習障害として定義することについて、ネガティヴな感想を抱かれる方がいらっしゃいましたら、僭越ながらその偏見について脚下照顧されることを御注進申しあげます。
 このことに関する描写は、とくに《魅惑の手》と《新米タンク》のエピソードが顕著でございます。《魅惑の手》のエピソードにおいて、紗夜は待合せの目的があらかじめ告げられたものとちがうことを知ると、単純に帰ろうとします。《新米タンク》のエピソードでは、オンラインゲームでクエストのマーカーが残っていると不安に感じることを説明しています。冗言ながら、この真摯さと不器用さが氷川紗夜という人物の魅力になっているものと存じます。
 さて、こうした非言語性および非習慣性の物事を理解することが苦手な紗夜において、性的な物事はストレスがかかるであろうことが理解できるのでございます。そのため、紗夜が好意を抱くつぐみが中性的である、ひいてはおっぱいが平坦であることは、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』を文芸的に読解すれば、ごく当然のことでございます。
 性的な魅力と言語的な合理性が背反することについて、書物を手繰らせていただければ、文芸的にはすでにドゥルーズが『シネマ1』で述べております。いわく《…このリアリズムは純然たる行動イメージの構築のことであり、この純然たる行動イメージは、環境とふるまいとのもうこれしかないといった連関のなかで直接に把握されねばならないものである(自然主義の暴力とはまったく別のタイプの暴力)。それは、欲動イメージを抑圧する行動イメージである。すなわち、その粗暴さと粗末さそのものとその非リアリズムとを通じてあまりにも下品な欲動イメージを抑圧する行動イメージである。…おそらく、或るいくつかの女性の役において、そして或る幾人かの女優達を介して…》※。(※ジル・ドゥルーズ著、財津理・齋藤範訳『シネマ1』p.236)
 余談ではございますが、おっぱいに関する研究として名高いマリリン・ヤーロム著『乳房論』は、痩せた体に大きなおっぱいという体型を魅力的なものとして扱う文化は、後期資本主義に特有のものと断言しております。ここでドゥルーズが『差異と反復』の巻末において、ガタリとの共著である『アンチ・オイディプス』において全面的に後期資本主義の消費社会における常同症と呼ぶべきものを批判していたことを連想いただければ幸いでございます。何も、わたくしは衒学や文学的な虚飾をおこないたいわけではなく、もし大きいおっぱいが無条件に良いものだと見做している方がおられれば、御自身の定見に「御一考を」と申しあげたいのでございます。

2.羽沢つぐみというキャラクターの人物造型
 羽沢つぐみというキャラクターは、公式ホームページのキャラクター紹介では《個性的なメンバーに囲まれた、ごくごく普通の女の子。》と説明されております。このとおり、羽沢つぐみというキャラクターは特性を把握しにくく、不遜を承知で、つぐみの性格を捉えることができていない方におかれましても「御尤も」と同情をしめさせていただきたいのでございます。
 つぐみの性格が顕著となるのは、前述のイベントストーリー『ちぐはぐ!?おかしな お菓子教室』における紗夜との交流でございます。この料理教室を舞台にしたイベントストーリーにおいて、紗夜は非言語性の物事を理解することが不得手であるために、終始、料理の教則にありがちなあいまいさに翻弄されます。そして、つぐみがその紗夜を助けることになります。このイベントストーリーはコメディタッチで、紗夜とつぐみの掛合いはユーモラスなものですが、興味深くもあります。紗夜の奇行の最たるものは、以下のとおりでございます。《「(紗夜)……あ。羽沢さん、定規はありますか?」「(つぐみ)えっ!? 定規、ですかっ!?」「(紗夜)生地を5mmにするので、貸してほしいのですが…」((つぐみ)紗夜さんって、本当に真面目な人なんだ。きっと色々なことに誠実に向き合ってるんだろうな)》。
 さて、平均的な一般人がこうした紗夜の言動を受ければ、聞くに堪えない罵倒をするであろうことは想像に難くありません。心持ちのよい『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』のキャラクターのなかでも、こうして疑義を覚えることすらない人物はつぐみただ1人だけであると存じます。
 つまるところ、つぐみもまた自閉症的な傾向を有するのでございます。つぐみは仕事を抱えすぎてあたふたしているとよく他のキャラクターから言及され、とくに青葉モカからはその様子を《「ツグってる」》と表現されています。ここで、フィクションのキャラクターについて自閉症的な傾向を有することを指摘することについて、悪意にもとづく笑いをされたり、正義感にもとづく憤りをされたりする方におかれましては、それが無知によるものであり、政治的な公正さに反するのみならず、御自身の自己実現をも阻害するであろうことを、衷心よりあらためて申しあげさせていただきます。
 《ごくごく普通の女の子》と表現されるつぐみは、きわめて特異な人格を有しているのでございます。ただし、これにつきましては「《ごくごく普通の女の子》と表現される女の子は普通であるはずがなく、それどころか普通からもっとも遠い人物であるはずだ」という、ごく基礎的な読解ができるものと、恐れながら申しあげさせていただきます。
 さて、こうした特異な人格を有する羽沢つぐみという少女について、美竹蘭や青葉モカのような、『Afterglow』バンドストーリー第2章に象徴される、良きにつけ悪しきにつけ年齢相応の人物として描写すべきか、湊友希那や宇田川巴のような、やや風変りな人物として描写すべきかと言えば、これは一も二もなく後者なのでございます。

 長広舌が過ぎましたが、つぐみのおっぱいが平坦であることは、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』における文芸の観点からは当然であることがご理解いただけたものと存じます。また、これに反対するプレイヤー諸兄におかれましては、僭越ながら御自身の見識に「御研鑽を」と申しあげたいのでございます。