『金田一少年の事件簿』全作レビュー

 なぜいま『金田一少年の事件簿』なのかというと、アンソニーホロヴィッツの『カササギ殺人事件』を読んだからだ。ミステリのすばらしさを称揚する本作で、古色蒼然たるミステリのすばらしさを思いださされた。そう。私たちはクローズド・サークル、連続殺人、怪人を自称する殺人犯、見立て殺人が大好きなのだ。
 というわけで、『金田一少年の事件簿』である。
 なお、第2期以降はシリーズに含めない。絵柄と上述の特徴につき、完全な別物である。『37歳の事件簿』は本元のパロディがあるものの、いわゆる「中年の再起」の物語に本元における金田一少年の活躍を重ねたもので、やはり別物だ。

Fileシリーズ

オペラ座館殺人事件


 記念すべき第1作、と言いたいところだが、あまり面白くない。クローズド・サークルでおきた殺人事件を金田一耕助の孫が解決するだけの話。
 クローズド・サークル、連続殺人、登場人物一覧、怪人を自称する犯人、見立て殺人の要素はすでに完成している。
 第1作なので犯人もあまり強敵でなく、その煩雑な犯行計画と度重なるミスは『犯人たちの事件簿』でネタにされたとおりである。
 初登場の剣持警部が完全な別人。横柄で乱暴な警察官になっている。第2作でも説明するが、この大味さが本シリーズの特徴である。
 オペラ座館は劇場版でふたたび惨劇の舞台となり、第2期でみたび惨劇の舞台となる。とっとと閉館しろ。さすがにその後、解体されたらしいが『37歳の事件簿』で跡地に建てられた施設でまたまた惨劇がおこる。

 

異人館村殺人事件

 本シリーズを読んだことがない人もこの事件が『占星術殺人事件』のトリックをパクったことは知っている、というくらいに有名な事件。
 トリックの盗用を除外しても、第2作というだけあって舞台設定と登場人物がマンガ的すぎ、あまりいい出来ではない。
 しかしこの事件で特筆すべきなのは、犯人を特定する証拠がメインとなる盗用した大トリックではなく、物語の冒頭で描かれるラブホテル前の盗撮写真であること。大がかりでマンガ的な舞台設定と登場人物、密室殺人と死体のすり替えに対し、犯人を特定する証拠の卑小さ。この落差の展開は見事である。そして、この展開が犯人と被害者のお涙頂戴の人情劇に繋がる。
 この大映的な人情劇を結末に配置するのが金成陽三郎の原作の特徴である。そして、この大味さが本シリーズの特徴であり、また『名探偵コナン』と差別化している。本シリーズに影響を受けた多くの推理マンガが本シリーズほどの人気作になることができなかったのは、この大映的で印象強い物語の魅力を欠いたためである。なお、『名探偵コナン』はまたシリーズ物として別の魅力をもっている。

 

③雪夜叉伝説殺人事件

 本シリーズのベストトリック推理小説全体の中でも優れたトリックである。シンプルで効果的。トリックとして最上である。
 明智警視の初登場。割と性格はそのままだが、今作では見事な金田一の噛ませ犬になっている。
 明智警視との推理合戦ということもあり、否定される推理が3つも出てくる。
 速水玲香の初登場。

 

④学園七不思議殺人事件


 傑作。本シリーズでもベストを争う。
 本作を傑作たらしめているのはテーマの徹底である。金田一らの通う不動高校が舞台であり、ミステリー研究会の会員が主要登場人物である。エキセントリックな会長の桜樹るい子、会員で嫌味男の真壁誠、得体の知れない尾ノ上貴裕、つねにカメラをもち歩く佐木竜太、潔癖症の高島友代。いずれも名キャラクターである。しかし、桜樹も尾ノ上も故人となってしまう。そして、その犯人は怪人などではなく、保身にかられるあまり犯行を重ねた憐れな小心者だった…
「桜樹センパイ…ここには『放課後の魔術師』なんていなかったよ いたのは『過去』に怯え罪を重ね続けた あわれな人間だけだった」
 名言である。
 終結部では金田一が桜樹と言葉を交わした屋上で、晴れ渡った青空をみて独白する。青春の喪失感と寂寥感。明確な物語のテーマ性を設定し、それを描ききった今作は傑作である。
 ミステリー研究会で生きのこった佐木は『異人館ホテル殺人事件』で殺されることになり、まったくやりきれない。
 今作では珍しく美雪が被害に遭う。『飛騨からくし屋敷殺人事件』でも襲撃されるが、殺害の目標になったのは今作だけである。本シリーズにおいて美雪は日常の象徴であり、金田一の生きる世界はあくまで日常の世界であり、ミステリーの世界ではないことを示す役割をもつ。金田一がコナンほど「死神」という感じがしないのはこのためもあるだろう(事件の数がちがうことも大きいだろうが)。
 犯人の動機の「真壁のポスターを剥がそうとしたから」も白眉。この動機の浅はかさも前述の虚無感に繋がっている。
 犯人の死にざまの憐れさは本シリーズでもトップ。的場が犯人だと思って再読すると、かなり笑えるシーンが多いことは『犯人たちの事件簿』でネタにされたとおりである。

 

⑤秘宝島殺人事件

 美作碧(佐伯航一郎)クン
 「トイレの便座が上がっていたから」は本シリーズの手がかりでもベスト。
 火村医師は本シリーズにときどきある目撃証人の口封じのための殺人だが、「女装をみてしまったため」という理由は本シリーズでもトップの憐れさ。
 推理のあとの展開がだいぶグダグダ。
 茅杏子は準レギュラー化。「箱」だけで強い個性を獲得。キャラ立てのお手本である。「箱」の中身はリドル・ストーリーになっている。電動バイブ説もあるが、「この子」呼びや「ガサガサ」という擬音など、動物と考えるほうが自然。

 

⑥悲恋湖殺人事件

 伝説の動機
 「イニシャルがS・Kだったから」という伝説の動機はさまざまなパロディを生んだ。
 「二人とも助かる方法をさ!!」
 名言。霧舎巧の『私立霧舎学園ミステリ白書』のエピグラフにもなった。まあ、哲学の思考実験としては設問を否定しているため答えになっていないのだが。
 脱獄囚「ジェイソン」という怪人の設定はかなり好きだ。
 いつきさんの初登場。

 

異人館ホテル殺人事件

 佐木死亡。悲しい。しかも、殺害の必要性がかなり低い。
 いわゆる意外な犯人。不破警視のキャラクターはけっこう好きだったため、残念でもある。
 麻薬中毒の不良少女だった時分から、「不破鳴美」の戸籍を手にいれてからおそらく1年、長く見積もっても2年で整形し、麻薬の薬抜きをし、猛勉強をして東大に合格するという偉業をなし遂げている。ぶっちゃけ麻薬に頼っていたと思う。大学に入学してからゆっくり薬抜きをしたのだろう。
 俵田刑事の言からして、警察官として普通にキレ者だったらしい。
 おそらく今作に潜在するテーマは「ナルシズム」で、世間的には無名の舞台俳優の花蓮より、エリート警察官僚の不破警視の方が羨まれる立場だが、不破警視は双子で自分と同じ顔をもつ花蓮に嫉妬してしまった。
 キレ者で捜査責任者という立場だったにも関わらず、トリックは割と安直。

 

⑧首吊り学園殺人事件

 いわゆる読者正答率最低の最強犯人
 犯行そのものもムダもなく、犯行計画でも危ういのは仁藤に遺書の偽造をさせるところだけ。室井が試験でカンニングするというかなり蓋然性の低い偶発的な出来事がなければ証拠もなく(さすがに犯人が完璧すぎるためか、筆圧による痕跡という物語とは関係のない証拠も用意してある)、名実ともに最強犯人に相応しい。
 阿久津國夫という強烈なギャグ要員がいる。
 ダミー犯人はオカルト少女の森宇多子。かわいい。短編でカメオ出演する。

 

⑨飛騨からくり屋敷殺人事件

 愛する母親に虫ケラのように殺されるという本シリーズでもかなり可哀想な被害者。
 自分を愛する品行方正な養子ではなく、自分を嫌う不品行な実子を選んだ。その実子も義理の母親だと思っていた実母を毒殺する。すべてが明らかになったとき、彼らは慟哭する。
 お前ら全員『重力ピエロ』を読め
 実際に殺害したのは目標である息子と共犯者だけという、ムダのない優れた犯行計画。
 殺人劇を招いた遺産はもえぎが相続するものとみられる。それだけあって、黒ネコを抱きかかえる金に執着しない浮世離れした美少女。ただ40年くらいしたら飛騨からくり屋敷はネコ屋敷、もえぎはネコおばさんとしてワイドショーでパパラッチされていそうな気もする。

 

金田一少年の殺人

 本シリーズでもっともとばっちりの被害者たち
 『学園七不思議殺人事件』と『悲恋湖殺人事件』もとばっちりなのだが、本作は「名前を暗号に使われただけ」という直接的にも間接的にも無関係な人びとで不条理感が強い。しかも5人も死んでいる(ただし1人目だけは本来の標的である)。その上、被害者たちは悪人ですらない。金田一少年の事件簿』シリーズでどれか1つの事件の被害者たちを蘇生することができるというなら、私はまちがいなくこの事件を選ぶ
 明智警視が金田一を追跡する捜査責任者として再登場。『雪夜叉伝説』の終結部で殊勝な姿をみせたためか、すんなり味方になる。
 いつきさんの再登場。かなりの熱血漢になっている。ダミー犯人でもあったが、そのまま準レギュラー化。
 『クロック城殺人事件』がメフィスト賞を受賞した際、メフィスト巻末編集者座談会で「このトリックは『金田一』だ」と言っていたのは今作のこと。

 

⑪タロット山荘殺人事件

 金田一が殺されかける。トリックもシンプルかつ効果的で申し分ない。かなり強敵の犯人。
 ただし前半の倒叙モノと後半の真犯人との対決で2部構成になっているため、カタルシスはやや損なわれている。
「こいつ… 東大を出てないのに頭いいぞ!」
 明智警視を除けば不破警視に続く2人目の東大出身者で、「東大出身者は犯人か被害者」という本シリーズの「東大のジンクス」の始まりをつくる。今作では犯人でしかも死ぬ。
 誘拐犯に父親を殺された挙句、奮起してなおそのトラウマのためにまともに就職できなかった経緯は割と憐れではある。
 速水玲香の再登場。父親だと思っていたのは実は実父を殺した誘拐犯だった。しかもマネージャーは実兄で、その実父を殺した犯人だった。まあ生き別れた兄妹がタレントとマネージャーとして再会するというのは蓋然性としてかなりムリがあると思うが…
 しかしその父親も、本来なら誘拐した自分を殺すべきだったにも関わらず同情から娘として育ててしまい、親としての愛情をもってしまった。またその父親を殺した実兄も、最後には兄としての愛情から自分を守って死ぬ。
 犯人の強敵さに加え、物語も哀切で秀作。
 今作での速水玲香は屈託を抱え、かなり魅力的である。その後は美雪の永遠に勝てないライバルという立ち位置に落ちるわけだが…

 

⑫蝋人形城殺人事件

 シリーズ最高傑作。少なくとも代表作であることは疑いがない。
 登場人物が全員、探偵役に相応しいミステリファンの大好きな「名探偵登場」の回。導入部で各人が壁の出っぱりの正体を推理する場面がこのテーマを端的に示している。しかも、この部分が伏線になっているのが巧い。
 本作の主人公でヒロインは明智警視。元々、美形という設定だが、今作の明智警視は作画が異様に美しい。シリーズ全作、全登場人物を通して今作の明智警視の顔が一番美しい。
 現実の「三億円事件」をモチーフに使い、それを明智警視の人物像の背景にする豪華な構成。
 この豪華な構成に加え、結末に軽いホラー落ちまでつけて、作品としては完璧である。
 ラストの明智警視が父親の遺影とともに「三億円事件」のおきた年の製造年のワインを開封する場面もよい。ナレーションもモノローグもないのが渋くてすばらしい。
「犯罪は「芸術」なんかじゃない!! あんただってもう気づいてるはずだ! 紙の上に書かれた「犯罪計画」と「現実の犯罪」がまるで違うものだってことに!! たしかに昔あんたの彼氏が作った「現金強奪計画」は完璧だったかもしれない! だが、かつてそれを実行したあんたたちに一体何が残った!? 仲間の「裏切り」と、恋人の無惨な「死」と、「憎悪」だけじゃないか!! 今のあんたにしたってそうさ! 20年以上も人を憎み続けて幸せだったのか!? 復讐を遂げて本当に満足したのか!? どんな綺麗事で飾ろうとしたって犯罪は悲劇しか生まないんだ!!」
 シリーズを象徴する名言である。どこかの自称「犯罪芸術家」にも言ってください
 20年以上かけてベストセラーの推理小説家になり、莫大な資金を用意し、招待客一行の蝋人形を自作するというめちゃくちゃ手間のかかった犯行。古城の土地建物はどう考えても架空名義で購入できるものではないが、どうやって処理したかは謎。

 

⑬怪盗紳士の殺人

 怪盗紳士の盗難事件と、真犯人の殺人事件が噛みあっていない失敗作。実際、怪盗紳士は物語の中盤で退場するという半端な展開になっている。
 が、結末の美しさとメッセージ性はシリーズ随一。画商の羽沢、天文学者の和久田、画家の吉良という小悪党や不快な人物たちが最後に少しずついいところをみせるところが小憎い。ささやかに感動的である。
 『学園七不思議』の桜樹に続く「序盤で金田一に好意をみせると死ぬ」、『秘宝島』の美作クンに続く「序盤で金田一に好意をみせると犯人」のジンクスをつくる。犯人でしかも死ぬ。

 

⑭墓場島殺人事件

 『異人館村』とちがってほとんど指摘されないが、トリックが『不連続殺人事件』のパクリ。関係者中で一番仲が悪いように装い、共犯者であることが気付かれないようにしたというところも同じ。しかも、『不連続殺人事件』でのトリックは共犯のいる部屋の前で騒ぎたてることで共犯と自分のアリバイをつくるというものだったが、この事件ではお粗末なことに全員のアリバイをつくっているため不可能犯罪となってしまっている。
 砂糖の数というマンガならではの手がかりは割と好き。
 登場人物がサバゲーマーの一行で、怪人が第二次世界大戦の生きのこりの兵士という舞台設定はオリジナリティがあり、サスペンス性も富んでいて好きだ。
 サバゲーチームに長期潜伏している檜山のミリタリーオタクぶりが明らかに演技ではないノリノリぶりである。
 爆弾も所持していて、下手に偽装工作するよりも、単純に無人島で全員を皆殺しにしてこっそり本土に戻り、あとは知らぬ存ぜぬを貫いたほうが完全犯罪としての成功率が高そうに思えるが、そこはマンガなので仕方ない。
 被害者たちのゲスさが目立つ事件でもある。
 被害者の荻元が「東大のジンクス」を叶えている。

 

⑮魔術列車殺人事件

 「地獄の傀儡師」高遠遙一の初登場。
 の割に、トリックがショボい
 犯罪コンサルタント、犯罪芸術家を名のる高遠の好敵手としてのカリスマ性が薄れる一因でもある。のちの2度目の犯罪コンサルタントとなる『金田一少年の決死行』ではちゃんと大がかりなトリックを用意してある。

 

⑯黒死蝶殺人事件

 作中で「前代未聞のトリック」と明言するだけあり、このトリックから逆算してすべての舞台設定が考案されている。
 そのため、本シリーズでは唯一、子供の被害者になっている。「序盤で金田一に好意をみせると死ぬ」の犠牲者。
 舘羽も割とかわいかったため憐れ。
 犯人はそうと知らずに実の妹を殺害していたという悲劇だが、母親の「20年以上に渡り冷凍保存していた精子で人工授精して故人の子供を産み、それを仇敵に育てさせる」という気が長く、迂遠で、効果のほどもわからない奇行としか言いようのない復讐が原因のため、どう反応していいかわからない。紫紋が『重力ピエロ』を読んでいたらどうするんだ
 終結部も感動的なのだが、上述の理由により、やはり微妙な反応になる。

 

仏蘭西銀貨殺人事件

 『金田一少年の事件簿』シリーズで嫌いな犯人のランキングをとったときに大体1位にくる犯人。
 動機は自己中心的、同じ生立ちなら同じ行動をとるはず、とトリックも支離滅裂、改悛の情なし、といいところのまったくない犯人。
 「葬送銀貨」というシリーズでもっともカッコいい怪人の二つ名をムダにもっている。
 シリーズの末期感が漂う作品。

 

⑱魔神遺跡殺人事件

 読者正答率の高い弱敵の犯人。
「だって普通のオバサンだし…」
 しかし火を使わない料理を献立にしていたというさりげない手がかりは割と好きだ。
 さつきは「序盤で金田一に好意をみせると死ぬ/犯人」というジンクスに反して生きのこる。
 「落下してきた吊鐘に手と首を切断される」というシリーズでもトップクラスにショッキングな死にざまがあるが、事故

 

速水玲香誘拐殺人事件

 面白くない。
 タイトルからし速水玲香が誘拐されるが、本人は死なずに関係者が1人か2人死ぬだけだろうと予想のつく緊張感のなさ、グダグダな構成と普通に面白くない。

 

以下、Caseシリーズ。

 

①魔犬の森の殺人


 ご存じ、千家が犯人の回。
 「レギュラーメンバーの名前に全員、数字が入っている」という偶然を利用した犯人当ては割と好きだ。
 「狂犬病の犬が闊歩しているため逃げられない」というクローズド・サークルは奇を衒いすぎの気もする。
 「壁に耳あり」の被害者のゲス行動は有名で方々でパロディされた。

 

②銀幕の殺人鬼

 シリーズで一番の凡作。
 強いて言えばポアロの「ラベンダーの匂いが嫌い」という設定を再利用したことが気が利いている。
 黒河の背中の火傷痕については最後まで疑問のまま残る。まあ、紙幅が割かれたとしてどうでもいい小話で終わるのだろうが。

 

③天草財宝伝説殺人事件

 前作に続く凡作なのだが、言及すべき点があり「シリーズ史上、最も地味な事件」
 本シリーズにしては珍しく、綿密に現地取材している。それだけに旅情モノとしての雰囲気があり、地味さに拍車をかける。
 被害者の赤門は「東大のジンクス」の犠牲者で苗字はダジャレ… というのがレッドへリングというシリーズのファンにだけ通じるムダな仕込みがある。

 

④雪影村殺人事件

 長期シリーズにつきものの異色作、と言ってもいいが、割と雰囲気が出ていて良作。
 金田一以外のレギュラーメンバーが登場しない上、金田一金田一耕助の孫であることに触れられることもなく、金田一が個人として旧友の自殺とそれをめぐる殺人事件に関わることになる。
 「嬉しい色のはずが許されない色だったなんて」。妊娠検査薬の陽性反応をここまで詩的に表現するひといる?

 

露西亜人形殺人事件

 秀作。今作の主人公は高遠。
 高遠が珍しくカッコいい、というより、高遠が唯一、カッコよかった回
 高遠が主役のため、高遠の知己の人物も魅力的に描かれている。
 そのため、犯人も小物であることが強調されている。
 「私がコンダクターよ!(迫力ゼロ)」は物語と演出の合致した迷シーンにして名シーン。
 純粋に金目当てで連続殺人をおこなったのだが、貧乏な生立ちで、それが偶発的なものだったという割と憐れな人物でもある。
 金田一に犯行を暴かれて自殺を試みるが、喉を突いたはずのナイフは一輪の薔薇に変わっていた…
「探偵にちょっと追い詰められたくらいで簡単に自分から死を選ぶようなあなたでは 冷徹な犯罪者にはなりえません」 「あなたはたった今 一度死んだ 生まれ変わる気があるなら 次はもう少し自分のあるべき姿を見つめ直してみる事ですね」
 そしてこの台詞である。カッコよすぎる
 常習的殺人者である高遠が人の命を助ける。しかも、それが高遠が自分と犯人の生立ちを重ねて同情したためだろうと語られる。
 本作の白眉は2段オチで、犯人が暴かれたあとに、その犯行がすべて故人により誘導されたものだったと高遠が推理、暴露する。
 こうして人の悪意と世界の無秩序さを強調する高遠が、審美的、論理的に正当な方法による殺人での復讐は倫理的にも正しいと考えるのは一貫している。そのため、金田一と思想対決するにも相応しい立ち位置を確保していると言える。
 その後はときどき推理が終わったあとに微妙に出演しては詮方ないことを言うシリーズのマンネリズムを象徴するキャラに。ここで出番が終わっていればよかったものを。

 

⑥怪奇サーカスの殺人

 シリーズ屈指の「それでいいの?」というムダに晴れやかなハッピーエンド。

 

金田一少年の決死行

 事実上の最終回。
 最終回だけあってオールスターキャストなのはいいが、そのせいでサスペンス性を欠いてしまっている。同じ『マガジン』連載のサスペンスである『サイコメトラーEIJI』の最終回もオールスターキャストだったが、こちらはレギュラーキャラが割とよく死んだり犯人だったりする作風のため、緊張感が保たれていた。
 剣持警部だけは高遠の変装のため本来の出番は少ないが、明智警視に「叩き上げの刑事である彼は刑事の魂である警察手帳を無造作に地面に投げ出したりしない」と熱い台詞を送られている。
 犯人の意外性はシリーズベスト
 「巌窟王」という犯人の動機の苛烈さ、トリックと舞台装置の大がかりさとも、最終回に相応しいもの。

以下、その他。

・短編集
 普通に長編に使うことはできないという程度の小品を集めただけの感がある。短編集としては『明智少年の華麗なる事件簿』『明智警視の優雅なる事件簿』がいずれも短編としての魅力に富む粒ぞろいの傑作。
 明智警視の「キザで周囲から浮いているが、本人だけのそのことに気付いていない。しかし、決めるところではそのキザなところが最高に決まっている」という二枚目と三枚目を兼ねる名キャラクターぶりが活き活きとしている。

・劇場版
 第2作の『殺戮のディープブルー』はテロリストに占拠された海中施設という変格クローズド・サークル。脚本はテロリストの行動とその裏の連続殺人が噛みあっておらず、微妙な出来なのだが意欲作ではある。オペラ座館の2度目の事件である第1作も良作。

・ノベルス
 『電脳山荘殺人事件』が小説ならではのトリックで良作。

 上述のとおり、第2期以降は絵柄が変わっていて別物。