匿名ラジオ・番外編『久川凪について考える』

恐山 「ちょっと聞いてくださいよARuFaさん」
ARuFa「なんだい恐山」
恐山 「半年くらい前に、オモコロで《デレステの久川凪は俺たちのことを知っているかもしれない》っていう企画をやったじゃないですか」
ARuFa「あー。普通、二次元のキャラクターは三次元の俺たちが一方的に認識するものだけど、逆に二次元のキャラクターが三次元の俺たちを認識してたら面白いんじゃないかっていう逆転の発想を楽しむ企画ね」
恐山「ちょっと! 企画の根幹を解説しないでくださいよ。醒めちゃうじゃないですか! …まあ、その企画ですよ」
ARuFa「うん。で、その企画がどうかしたの?」
恐山 「そのことで、私、恐ろしいことに気づいちゃいましてね。その前に、CEDEC 2019で『アイドルマスター シンデレラガールズ』に起こったことを、ARuFaさん、ご存じですか?」
ARuFa「いや。知らない知らない」
恐山「CEDECというのはコンピューターゲームの関係者向けの大規模な集会でですね、そこで『アイドルマスター シンデレラガールズ』の運営会社であるCygamesも講演を行ったんですよ」
ARuFa「うん」
恐山 「その講演の1つがシナリオチームのものだったんですよ。そこでですねえ、『デレマス』のキャラクターの1人である速水奏が例として使われたんですよ。速水奏というのはですね、17歳、女子高生。趣味が映画鑑賞。落着いていて、どちらかというとプレイヤーを翻弄するようなキャラクターなんですよ」
ARuFa「うん」
恐山 「それがですね、その講演で《大人ぶりたいJK》というコンセプトのキャラクターであることが説明されてしまったんですよ!」
ARuFa「あららら。…こっちを翻弄するような、大人びてて、謎めいた言動が、全部演じたものだったっていうことが暴露されちゃったわけね」
恐山 「はい… まあ、速水奏はコミュで《気持ちのいい風… なんだか怖いくらい》とか言いだすようなキャラクターなので、素でそういうことを言ってなかったのはむしろいいくらいなんですが」
ARuFa「そりゃ風が吹いただけで怖がるようなキャラクターは、むしろこっちが怖い… ニャ」
恐山 「あッ! ネコだ! 風が吹けば盲目のひとが増えて、三味線の革を張るためにネコが乱獲されるから、風を怖がってる!」

   ♪♪♪

恐山 「それでですね、《デレステの久川凪は俺たちを知っているかもしれない》で、久川凪は俺たちを知っているって結論づけたじゃないですか」
ARuFa「そうだね。あれから半年くらい経ったけど、どう?」
恐山 「いや。変わらないですね。やっぱり久川凪は俺たちを知っています。それで私のツイッターアカウントをフォローしています」
ARuFa「都合いいなぁ」
恐山 「そもそも久川凪は『デレマス』の7周年で追加された7人のアイドルの1人で、その7人はなんかしらネットウケを意識してるんですよ」
ARuFa「他はどんななの?」
恐山 「配信者とか、語尾が《ンゴ》とか… 自称メンヘラの夢見りあむはかなりバズりましたね。第8回のシンデレラガールズ総選挙でいきなり第3位に入ったので、上位5位以内ということでボイスが実装されました」
ARuFa「それ! それだよ恐山!」
恐山 「なんですかARuFaさん」
ARuFa「前から思ってたんだけどさ、人気投票で上位になったらボイスが実装されるっておかしくない? だって、『デレマス』のアイドルだって作中では声があるわけでしょ? ポポポポ、とか喋ってるわけじゃないんでしょ? それが人気投票で上位になってから、はじめてボイスが実装されるっておかしくない? それアリ?」
恐山 「なんですか、その《ポポポポ》って」
ARuFa「『逆転裁判』のキャラクターの声」
恐山 「効果音じゃないですか!」
ARuFa「え、なに? アイドルだって、設定上はもともと声があるんだよね。じゃあ、悪い魔女に魔法で声を奪われて、《声を返してほしかったら総選挙で上位になるんだよ。ヒッヒッヒ》とか言われてるわけ? だから『シンデレラガールズ』なの?」
恐山 「『シンデレラ』の魔女はいい魔女ですから! まあ、なんですか。魔女にもいろいろあるんですよ。予算とか…」
ARuFa「あー。じゃあ、はじめから『デレマス』のアイドルは無声で、魔女の魔法がかかれば声を出せるようになるんだ。声の出ない女の子との交流、『聲の形』じゃん。《感動しました!》、《人生で大事なものを学びました!》、《もう5回は観ました!》」
恐山 「ちょっと、なんでバカにしてるんですか!」
ARuFa「え? バカにしてないし。いまのは素直な感想だし。恐山こそ『聲の形』のことめちゃめちゃバカにしてるでしょ」
恐山 「してないですよ! じゃあ、ARuFaさんは『聲の形』をバカにしてないってことでいいんですね?」
ARuFa「それは… バカにしてるけど?(笑)」
2人 「(笑)」

   ♪♪♪

恐山 「話を戻すと、久川凪がネット中毒だとすると、あの不条理な言動の意味も変わってくると思うんですよ」
ARuFa「あー。直球の笑いはダサいと思ってるから、ギャグがどんどんシュールでハイコンテクストになっていくヤツね? だんだん自分でもなにが面白いのか分からなくなってくる」
恐山 「そうなんですよ。久川凪があの言動を狙ってやっているとすると、内面はめちゃくちゃ尖りまくってることになるんですよ」
ARuFa「《お前らダサいんだよ!》って」
恐山 「そうそう」
ARuFa「うーん。でもさ、ネットをチラッと見て、それでたまたま感性が合ってたっていうこともありえるじゃん。マンションポエムとか、P Payとかもさ…」
恐山 「いや。それ、ありえます? それなりにネットに浸ってないと、ここまで尖らないんじゃないですか?」
ARuFa「インターネットの神に愛された子」
恐山 「なんですか、そのインターネットの神に愛された子って!」
ARuFa「久川凪」
恐山 「いや、それは分かってるんですよ!」
ARuFa「小説の神に愛された子、音楽の神に愛された子、インターネットの神に愛された子がいるとするでしょ。小説の神に愛された子は最年少で芥川賞をとったりするの。音楽の神に愛された子はピアノをシャラララって弾いて、なにかのコンクールに優勝したりする」
恐山 「それで、インターネットの神に愛された子は?」
ARuFa「2ちゃんで嫌いな小説家のスレを荒らしてる。で、インターネットの神に愛されてるから、1レス投下しただけで、もうスレが荒れるの」
恐山 「嫌な才能だな~。もう2ちゃんねるないですしね。その小説家も、どうせ小説の神に愛された子とかでしょ。他人に与えられた才能を相殺して帳消しにするだけの才能」
ARuFa「それが久川凪」
恐山 「ちがいますよ! 例えば久川凪の代名詞と言えばマンションポエムですよね。マンションポエムっていうのは、現代のスノビズムの象徴なんですよ」
ARuFa「ん? どういうこと?」
恐山 「スノビズムっていうのはスノッブ、知識のひけらかしなんかの傾向のことを言いますよね。でも、もともとは端的に《俗物根性》って意味だったんですよ。ナボコフが50年くらい前にそういうことを言っています」
ARuFa「なるほどね。マンションポエムはスノビズムなわけだ。ナボコフって『ロリータ』の作者でしょ? いま生きてたらツイッターやってそう。それで本質を突くツイートめっちゃしてそう」
恐山 「そしたらARuFaさんはフォローしますか?」
ARuFa「いや、フォローはしない。尖りまくってて相互フォローになったら気を使いそうだし。リストに入れて、フォローしないで監視する」
恐山 「それが久川凪なんですよ」
ARuFa「なるほど」
恐山 「このあいだ武蔵小杉のタワーマンションがウンコまみれになったときもネットで大ウケしてましたけど、それもそういうことでしょう?」
ARuFa「いや、それは関係ないでしょ。だってウンコまみれになってて面白くない場所ってないでしょ。《あ、スラム街がウンコまみれになってる。ギャハハハ!》、《あ、ホワイトハウスがウンコまみれになってる。ギャハハハ!》って。ウンコでいっぱいになってて面白くない場所って肥溜めくらいじゃない? そりゃ、肥溜めを指さして《ウンコ、ウンコー!》とか言ってたら、《小学生かよ》って思うけどね」
恐山 「《ホワイトハウスがウンコまみれになってる!》とか言うのも、十分、小学生ですよ!」

   ♪♪♪

恐山 「つまりですね、久川凪はぶっちゃけた言いかたをすれば、中二病なんじゃないかってことですよ」
ARuFa「でも、14歳なら普通じゃない?」
恐山 「それはそう。でもね、『デレマス』に中二キャラはもう2人いるんですよ。神崎蘭子と二宮飛鳥。しかも2人とも14歳」
ARuFa「うわー」
恐山 「神崎蘭子中二病でも、中二病っていうか、いわゆる邪気眼なんですよ」
ARuFa「《昔、妹は中二病だった。普段の自分が、「影羅」という魔族の人格を抑えている二重人格という設定だった。でもあるとき、夕食のときに「影羅」の人格が出て、「久々の飯だぜ」と言いながら夕食を手掴みで食べはじめた。食べもの関係のジョークを一切許さない母が妹を殴ると、妹はまた普通に食べだした。それ以来、「影羅」の人格が出たことはない》」
恐山 「なんでそんなのがすぐ出てくるんですか… ともかく神崎蘭子中二病でも邪気眼の部類なわけですね。で、二宮飛鳥はわりとそのままの意味の中二病なんですよ」
ARuFa「《レゾンデートル》という言葉をすごくカッコいいと思っちゃうみたいな」
恐山 「そうそれ! でね、二宮飛鳥が出てきたときも、忘れたい記憶が一部、甦ってくるところはあったんですよ。でも、二宮飛鳥が中二病だって言っても、《ああ、中二病ね》と言って、自分とは切りはなして考えられるでしょ。久川凪は《中二病》と言うこともできないんですよ。なぜなら、まだそういう類型が生まれてないから」
ARuFa「いわば現代の、現在進行形の中二病なんだ」
恐山 「そうなんですよ… それが私には恐ろしい」

   ♪♪♪

ARuFa「いやー、にしても久川凪、めちゃくちゃ尖ってるね」
恐山 「めちゃくちゃ尖ってますよ。さっき言った夢見りあむとか、夢見りあむ本人はまだしも、夢見りあむのファンのことはめちゃくちゃ嫌ってそうですもん。夢見りあむのファンの、夢見りあむをネタにした、オタクに特有のちょっと捻った小賢しい《感動する話》みたいなツイートを見て舌打ちしてそうですもん」
ARuFa「尖ってるねー」
恐山 「尖ってるから扱いも難しいですよ。なにがパーフェクトコミュニケーションか分からないですもん」
ARuFa「んー、じゃあ、俺たちでやってみようか。俺がPをやるから、恐山が久川凪をやってよ。パーフェクトコミュニケーションを出してみせるから」
恐山 「いいですよ。そうですねぇ… 《都会に現れた、20坪の凪空間。でも実際の面積は0・5坪ほどです。これは宅建業法違反で処罰されてしまうな。タコ坪ならぬタコ部屋です》」
ARuFa「《うーん、これは半畳を入れられちゃったな。0・5坪だけにね!》」
恐山 「ちょっとARuFaさん!」
ARuFa「え、なに恐山」
恐山 「なにうまいこと言おうとしてるんですか! 乗ってきちゃダメなんですよ! こっちは尖りまくってて、不条理ギャグで煙に巻こうとしてるんですから、乗ってこられたら《シュン》としちゃうじゃないですか! しかもなんですか《0・5坪だけにね!》って! こんなのバッドコミュニケーションですよ!」
ARuFa「えー、じゃあ、なんて言えばいいの」
恐山 「《は…?》とか《え…?》とかですかね。そう考えるとコミュのPはパーフェクトコミュニケーションを達成してますね。とにかく《0・5坪だけにね!》だけは最悪です!」
ARuFa「は…?」
恐山 「パーフェクトコミュニケーション!」
ARuFa「適当に《はは。面白いね》とか言うのは?」
恐山 「うーん。そうやって相手すると、久川凪が大学生くらいになったときに、夜中に中学生だったときのことを思いだして《うわぁー!》ってなっちゃうかもしれないので」
ARuFa「ハハハ。そう考えると、久川凪も美少女だからかわいいけど、外見がオッサンだったら許されないね」
恐山 「そりゃ外見がオッサンだったら大抵のことは許されないでしょうよ。私が《にょわー! はぴはぴにぃ!》とか言ったら変質者でしょ」
ARuFa「それじゃ、俺が《うーん、働きたくないなぁ。働いたら負けだと思ってる》って言ったら?」
恐山 「それはただのニート
ARuFa「は…?」
恐山 「パーフェクトコミュニケーション! …《あ、もしかしてARuFaさん!? ブロガー時代からのファンです!》」
ARuFa「パーフェクトコミュニケーション!」

《えー? もう終わっちゃうの?》
《ご清聴、ありがとうございました》