※最新7巻まで全話ネタバレ注意
・凡例
・"話数"『"話名"』
【"怪異名"】:"怪異の概要"
「危険度:"0-9"」(0=中立 9=関わった人間は確実に死ぬ)
「影響範囲:"1-5"」(1=個体、2=建物、3=土地単位、4=行政単位、5=無制限)
【"裏バイト報酬"】
「裏バイト生還率:"n%"」(ルール解明後)
・第1巻
・第1話『ホールスタッフ』
【「森」・オーナー】:人間を木に取りこむ。オーナーがたびたび従業員を殺害、「森」に捧げていた。「森」そのものは積極的に加害しない。
「危険度:1」
「影響範囲:2」
【時給15,000円*出勤時間6.0時間*出勤日数10.0日=900,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:記念すべき第1話。加害の主体は人間であるため、怪異そのものの危険性は高くない。というか、第1話を読んだ時点で、これを「危険性は高くない」と評するなどとは予想だにしなかった。
・第2-4話『ビル警備員』
【黒黒ビル】:ビルに入ったものを変死させ、無名のサラリーマンの幽霊に変える。
「危険度:7」
「影響範囲:2」
【時給10,000円*出勤時間8.0時間*出勤日数31.0日=2,480,000円】
「裏バイト生還率:50%」
備考:サラリーマンへの当たりが強い。
・第6-9話『個人向け配送業』
【鞄】:鞄を見かけたものに、強烈に中身を見たくなる暗示をかける。また、中身を見たものは、恐怖のあまり自殺する。
「危険度:7」
「影響範囲:5」
【成功報酬500,000円(実働3日、経費込み)】
「裏バイト生還率:90%」
備考:ルールが単純なため、ルールさえ知っていれば、死亡する可能性は低い。一方、「鞄」そのものの危険性は甚大。「鞄」以前に、仕事を達成することが難しい。
平山夢明の『恐怖症(フォビア)召喚』(所収『他人事』)も、目を合わせることで致死性の恐怖症を発症させる少女の話だ。少女を東南アジアに連れていくところで終わる、オープンエンドの結末も似ている。
・第10-12話『治験』
【Q治験・「扉」】:治験中、夢に現れる「扉」を開いたものがアセンションし、世界から消滅する。
「危険度:3」
「影響範囲:5」
【協力費3,000,000円】
「裏バイト生還率:50%」
備考:号泣した。"「二階にさ… ドアがあるんだ。」「なんの魅力も無くて… 見ただけでクソって分かる、見覚えのあるドア。」「あれが現実じゃん。」"、"〈嘘だったんだ 私の住んでいた世界は、全くの嘘っぱちだったんだ〉"。
第1巻の最終話だけあり、序盤のクライマックスになっている。若い女性2人が怪異を起点として異世界に触れ、また日常に戻ってくるという同じ趣向の、宮澤伊織の『裏世界ピクニック』も第1巻の最終話は似た筋書になっている。ひとりが異世界にアセンションしかけ、もうひとりの呼びかけで現実に留まる。
『裏世界ピクニック』はネットロアの怪談を題材にしているが、そのなかで主要主題と思われるのが『裏世界』だ。同様の怪談に『2001年の秋』と『地下の丸穴』がある。
こうした離人感、現実感のなさは文学の主題にもなっている。ボルヘスが激賞したホーソーンの短編『ウェイクフィールド』と、ハードボイルドの始祖であるハメットの『マルタの鷹』における「フリットクラフトの寓話」だ。
とくに後者は、本作が非情を基調とするハードボイルドに通じること(とくに『探偵助手』)を考えると、重要だろう。
「扉」そのものは開けなければ済むため、対応は容易だ。また、「扉」は遍在するようだが、Q治験のような実験が行われない限り、ほぼ遭遇しないようだ。しかし、治験に応募するようなひとびとにとって、「扉」の誘惑は強力だろう。
なお現在は、金銭そのものが目的となるような治験の協力費は違法化されている。
・第2巻
・第13-15話『人形供養』
【人形・黒柳翔平(人形供養の業者)】:人間の肉体を奪う人形。ポピュラーな怪異だが、黒柳が裏バイトを人身御供にすべく、陰謀を巡らせていることが危険性を急増させている。
「危険度:5」
「影響範囲:1」
【日給150,000円*出勤退社1.0日+依頼料2,000,000円/3(寸志)=816,666円】(黒嶺。白浜は+端数1円)
「裏バイト生還率:75%」
備考:概要に書いたとおり、怪異そのものはポピュラーなものだ。裏バイトとしては、ある建売住宅を舞台に、陰謀を暴かなければならない。
・第16-18話『自然保護監視員』
【しらかみ様】:雪崩のような現象。地元住民は山の神として崇めている。
「危険度:9」
「影響範囲:3」
【日給150,000円*出勤日数2.0日=300,000円】
「裏バイト生還率:30%」
備考:いわゆる神が怪異。
"「神を崇める者。神を否定する者。神とはなんの関わりも無い者。神はどれを見逃すと思う?」「答えは、全て殺す、だ。」"。
1つのホテルが全滅する大災害。大きな犠牲と、小さな救いが物語に余韻を残す。
・第19-21話『助勤巫女』
【福ノ神・福音島島民】:人間、とくに若い女性を生贄に捧げると、ひとびとに禍福をもたらす。福音島島民は福ノ神を利用するため、毎年、大晦日に、裏バイトの若い女性を殺害していた。
「危険度:0」
「影響範囲:1」
【日給1,000,000円*出勤日数8.0日=8,000,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:福ノ神そのものは中立で無害。しかも、対話可能だ。福ノ神と呼ばれているが、しらかみ様と比較すれば、神ほど強大でなく、人間に近い。つまり、天使だ。
問題は、私利私欲のために純然たる殺人をしている福音島島民だ。公益のためと称しているが、所詮、成りあがり者の言だ。赤川もこんな連中を仲介しないでほしい。
・第22-24話『水族館スタッフ』
【マザー・フィッシュ】:水族館の水槽を遊泳する人間という疑似餌と、機械音による洗脳で、人間をバックヤードの巨大な黒い水槽に誘いこみ、捕食する。
「危険度:7」
「影響範囲:2」
【時給100,000円*出勤時間4.0時間*出勤日数10.0日=4,000,000円】
「裏バイト生還率:50%」
備考:巨大な海棲生物という巨大なものへの崇高および恐怖と、ラヴクラフトが好んで題材にした、魚類への生理的嫌悪感および恐怖の2つが主軸になっている。前者に、水族館の夢幻的なものへの安心感を相俟わせたあと、一転して後者で落とす展開が巧い。
あるいは、マザー・フィッシュという母体すら、水族館で飼育されている魚類が生みだした幻覚かもしれない。
バックヤードに迷いこんだ客が原因不明の失踪を遂げることを知りつつ、300万円という高額のバックヤード・ツアーを開設している水族館も悪どい。
・第3巻
・第25-27話『学校用務員』
【いちょうさん】:髪の毛を捧げて約束をする。1週間以内に約束を破ると惨殺される。それを防ぐには、別の人間に同じことをさせ、約束を破らせなければならない。
「危険度:5」
「影響範囲:5」
【日給90,000円*出勤日数6.0日=540,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:いちょうさんという呼名は「人間の意思を超越した」の意味。『リング』と同じ、自律的なシステムと化した怪異だ。
裏バイトとしては、約束を破らなければいいだけだ。一方、結末で、いちょうさんの呪いを先送りしていた教師たちが惨殺されたため、いちょうさんはまたどこかに解きはなたれたと思われる。
・第28-30話『探偵助手』
【虚像(吾妻史郎)】:華栄地区9番街、通称「魔の九番街」に出没するスター・吾妻史郎の虚像。それを吾妻史郎と認識したものを事故死させる。虚像と現実との相違が大きくなったときは、飛行機事故さえ起こす。
「危険度:7」
「影響範囲:3」
【給与1,000,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:八木探偵の仮説では、虚像が虚像としての自己を保つため、具体的に吾妻史郎だと認識したものを抹殺するという。
"「裏バイトなんかしてる時点で、ここにいる人間皆どうしようもないから。」「仲間なんだよ、私達。」"。
緑澤由紀は八木探偵事務所への就職が決まった直後、吾妻史郎の虚像に捉えられ、事故死。白浜に深い悔恨を残す。
・第31-33話『温泉宿スタッフ』
【夢の湯】:入浴したものが若返る温泉。実際は、入浴したものの肉体と記憶を読みとり、全盛期の姿で入れ替わる液体の怪異だった。近くにいる人間を溺死させることもある。
「危険度:4」
「影響範囲:1」
【月給2,500,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:温泉宿「乳海」の女将である武藤は、宿に火を放ち、夢の湯に始末をつける。しかし、すでに夢の湯は何者かが盗泉していた。
・第34-36話『ラジオAD』
【がまずみ】:ラジオ番組「水曜日のお悩みボックスアワー」の投稿者。ラジオ局で怪現象を発生させる。また、放送を通じて聴視者に語りかける*。
「危険度:6(1*)」
「影響範囲:2(4*)」
【月給2,000,000円】
「裏バイト生還率:50%」
備考:電波塔から投身自殺したリスナー・寺井しのぶの怨霊。リスナーとして注目されたいなら、ハガキ職人の腕を磨いてほしい。
・第4巻
・第37-39話『ブライダルスタッフ』
【冥界の門・今縁(こん ゆかり)】:結婚式場の地下にある冥界の門。冥界の門そのものは冥婚を契機として、生死が混沌とした幻視をさせるだけだ。だが、スタッフの今がこれに触発され、自身の冥婚を行うべく殺人鬼と化す。
「危険度:0→7」
「影響範囲:2」
【時給50,000円*出勤時間8.0時間*出勤日数2.0日=800,000円】
「裏バイト生還率:50%」
備考:脅威は殺人鬼。ただし、冥界の門で強化されている。
・第40-42話『ファミレス店員』
【ファミリーレストラン・マストのある支店】:15年前に無差別殺傷事件が起きたファミリーレストラン・マストのある支店。犯人・爆龍真拳が下見に訪れた6月22日から、事件当日の29日までのあいだ、毎年、店舗があった更地に過去の店が現れ、事件までをくり返す。いわば、店の幽霊。系列店の店員を取りこむ。
「危険度:8」
「影響範囲:2」
【週給2,100,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:主役2人が対応法を確立。無害化された。
無差別殺傷事件という実在の事件への配慮もあるだろうし、被害者への共感と、加害者である社会的弱者への寄添いが、人道主義を感じさせる。
"「…じゃ、尚更行かなきゃ。仲間も助けられないヤツが、父親なんかなれないよ」"。
フランコ・ベラルディの『大量殺人の"ダークヒーロー"』によれば、新自由主義的政策の浸透と、無差別殺傷事件、自殺の発生件数は相関している。また、国内の無差別殺傷事件の犯人は例外なく経済的に困窮している。無差別殺傷事件を防ぐもっとも効果的な政策は、社会福祉を手厚くすることなのだ。
・第43-44話『家政婦』
【-】:-
「危険度:-」
「影響範囲:-」
【日給790,000円*出勤日数8.0日=6,320,000円】
「裏バイト生還率:100%」
備考:ギャグ回。"「明日から、日給一万円でいい?」"のギャグのキレがすごい。それはそう。
・第45-47話『空き地探し』
【ムッキー(黒い毛むくじゃらの怪物)】:ある行政区画に立ちいると、黒い毛むくじゃらの怪物に襲われる。襲われたものは圧殺されたように見え、そのじつ、その行政区画の家のなかに閉じこめられる。
「危険度:8」
「影響範囲:4」
【成功報酬500,000円/発見件数*3件+情報提供料500,000円=2,000,000円】
「裏バイト生還率:80%」
備考:近年、行政がゲーミフィケーションを利用する事例が増えているらしい。本話もそれを背景にしているのだろう。
本話の怪異の正体は、作中で明言されていなく、ネット上でも議論が行われている。しかし、作中の事実関係はそれほど複雑ではない。その事実関係から推論すれば、怪異の正体もおおよそ特定できる。
なお、おそらく老夫婦は『アメリカン・ゴシック』のイメージを借用している。
事実関係を整理すると、以下の通りになる。
1. ある住宅地の特殊環境化.
1-1. 黒い毛むくじゃらの怪物が徘徊.
1-2. 怪物に襲われると,家のなかに閉じこめられる.
1-3. 怪物は,自転車走行,走るなどの"目立つ"行為に反応する.
1-4. その住宅地の空域にヘリやドローンが入ると,怪物が撃墜する.
1-5. その住宅地を航空撮影すると,子供のような影に覆われる.
2. 怪物は屋根の下に入ることで避けられる.
3. その住宅地に老夫婦が住んでいて,家からは子供の声と老夫婦の怒号がしていた.ある日,それらの喧騒は止み,老夫婦は満面の笑みを浮かべていた.
3-1. 老夫婦は子供を閉じこめ,虐待していた.
3-2. 老夫婦は満面の笑みを浮かべた死体となって,空地に埋められていた.
4. 老夫婦の死体の発見後,異なる住宅地に,怪物が出現した.
4-1. 初めの住宅地も,状況は変わっていない.
5. 幼児「マーくん」が,怪物に似たぬいぐるみで,簡単な地図(推定)が描かれた模造紙のうえで遊んでいる.
5-1. マーくんは怪物をお絵描きしている.
5-2. その住宅地で怪物がひとを襲っていたとき、マーくんは怪物に似たぬいぐるみで、模造紙のうえで、そのひとに似た人形を潰していた.
虐待は伝聞情報だが、もし事実でないなら、反証のための手がかりが描かれるはずだから、事実と見なしていい。
ネット上の議論では、マーくんをミスリードだとする意見が散見されるが、5-1と5-2により、明らかに関係がある。
また、ネット上の議論では、怪物が異なる住宅地に出現したとき、屋根の下に入っていたとする指摘がある。ただし、屋根の下に入るという対応法について、これで主役2人が脱出に成功し、これについて情報提供料が支払われ、その後、これが広く使われているらしいことから、この対応法は明らかに正しい。怪物が屋根の下に入っているかも不明確で、この指摘は無視する。
事実関係が複雑に見えるのは、インチキ霊能力者が、「空地に子供の死体が埋められている」というインチキの霊視をしたためだ。実際には、老夫婦の死体が埋められていたという矛盾が、読者を混乱させる。このインチキの霊視は完全に無視しなければならない。
老夫婦の死体を埋めたのが、怪異であることは確かだ。自分で自分の死体を埋めることはできない。また、他に老夫婦の死体を埋めるものはいない。
問題は、なぜ老夫婦の死体が満面の笑みを浮かべていたのかということだ。
着目すべきなのは、崎村が友人をハメたとき、老夫婦と同じ満面の笑みを浮かべていたこと、そして、その崎村は黒嶺の言う「クサい」ものになっていたことだ。
つまり、怪異による「遊び」に組みこまれ、その「遊び」で勝ちそうになると、その満面の笑みを浮かべるのだろう。
その仮説に立てば、老夫婦の死体がその満面の笑みを浮かべていたのも、「遊び」に勝ちそうだったからということになる。また、老夫婦の死体は家のなかにはなかった。すなわち、怪物に捕まってはいなかった。
つまり、老夫婦の死体はケイドロのドロボウのほうだったのだ。
そして、ドロボウが捕まったために、「遊び」がゲームセットされ、新たな「遊び」が異なる住宅地で始まった。
ケイドロのケイサツはマーくんだ。このケイドロは、虐待死した子供とマーくんとの遊びだったのだ。虐待死した子供は、怪異となり、マーくんに接触した(お絵描きはそのことを示唆する)。そして、マーくんにぬいぐるみと模造紙を提供した。マーくんのほうは悪意はなく、いわゆる無邪気で残酷ということになる。この恐怖の主要主題が、ゲーミフィケーションという題材と響きあっている。
・第5巻
・第48-50話『海の家スタッフ』
【おおいなるもの】:某県の臨海地域を支配する存在。人間の総数と、全体および個々の認識を調整している。間引かれた人間は「かえった」とだけ認識される。間引かれた人間の残骸はフジツボの塊になる。
「危険度:3」
「影響範囲:4」
【時給10,000円*出勤時間7.0時間*出勤日数9.0日=630,000円】
「裏バイト生還率:80%」
備考:人間の認識そのものを上回る超越的な存在。黒嶺が「クサい」ではなく、それを超えて「ただ恐ろしい」と評しているのが、そのことを傍証する。
主役2人が逃れられなかった2つの怪異の1つ。
江口がおおいなるものと対決したとき、深海で孤立したように感じているため、既存の概念では海の神が近いだろう。
おおいなるものの影響は人間の認識を超越しているが、江口は愛娘が「かえった」ために覚醒。その愛娘さえ、おおいなるものにあっさり復元されてしまう。
おおいなるものに人間への悪意はないが、物語上だけでも、江口を含む4人を間引いている。人間が洗剤を使っても、殺菌する菌群を気にしないのと同じだ。
・第51-53話『葬儀屋スタッフ』
【真黒石(黒いエビス)・鉢巻村村民】:鉢巻村村民を初めとするひとびとに「死後の知識」を授け、生を悪、死を善とする思想に洗脳する。鉢巻村村民は、黒いエビスの指示で盆の最終日に集団自殺。指示された死者数のためには殺人も辞さない。
「危険度:9」
「影響範囲:4」
【日給75,000円*出勤日数10.0日=750,000円】
「裏バイト生還率:10%」
備考:黒いエビスが死を望むように洗脳する。また、一村の村民全員が善意で殺しにくる。後者については、主役2人も颯太という現地協力者がいなければ逃れられなかった。
エクソダスを目的とした集団自殺、無差別殺人と、死後にはじめて分かる真実という結末は、白石晃士の代表作『オカルト』を想起させる。
生は悪、死は善という思想は、べネターの反出生主義、より根本的に誕生害悪論や、シオランの誕生害悪論に近い。ただし、べネターもシオランも自殺については保守的だ。また、誕生害悪論は逆説的に子供を守ることを要請する。『セブン』のサマセット刑事曰く"「But if you choose to have this baby, you spoil that kid every chance you get.(だが、もし産むつもりなら、精一杯甘やかして育ててやれ)」"。
白浜の"「親が、子供にそんなこと言うわけないだろ!」"のセリフが熱い。
・第54-56話『駅員バイト』
【阿迦羽駅13番ホーム】:複雑な手順を踏むと入ることができる、阿迦羽駅の存在しない13番ホーム。到着する電車に乗ると、消息不明になる。走行中の電車から飛びおりた主役2人は、平行世界に着いた。
「危険度:0」
「影響範囲:2」
【研修期間:時給1,100円*出勤時間8.0時間*出勤日数3.0日+実務期間:時給11,000円*出勤時間8.0時間*出勤日数3.0日=202,400円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:プロトコルが複雑すぎ、迷いこむことがきわめて稀で、行先を知らない電車に乗ることもないだろうため、ほぼ無害な怪異(方向音痴の人間は、行先を知らないまま電車に飛びのることがあるらしいが、そちらのほうが怪異だ)。
プロトコルそのものはオカ板で噂になっているらしい。いわゆる「異世界に行く方法」のひとつだろう。
電車から飛びおりた主役2人は平行世界に着くが、これは『きさらぎ駅』を彷彿させる。平行世界の描写については、『裏世界』、『2001年の秋』を想起させる。
・第57-59話『遊園地スタッフ』
【ウサきゅう・その他、冨岡Qランドのきぐるみ】:動物の頭に人間の体のきぐるみが、そのまま生身の怪物。来園者がナイトパレードの光を浴びると、心身とも幼児退行する。幼児退行した来園者を誘拐。胎児までさらに退行させ、捕食する。
「危険度:8」
「影響範囲:3」
【給与未払い】
「裏バイト生還率:50%」
備考:遊園地ぐるみの誘拐で、普通に危険。ディズニーランドの誘拐という有名な都市伝説を想起させつつ、実際には誘拐されていたのは大人だという意外性を構成している。八木の仮説によれば、怪異は人間が重ねた時間を奪っているらしい。
主役2人はこれを時間の逆行に利用、元の世界に帰還する。
平行世界の八木は「失敗」したものと思われる。
冨岡Qランドそのものは、幼い黒嶺が実親に捨てられた場所でもある。
・第6巻
・第60-64話『キャンプ場スタッフ』
【オヨツ】:人間に憑依し、殺人衝動をもたらす。そうして人間のあいだを伝播する。
「危険度:5」
「影響範囲:5」
【日給250,000円*出勤日数5.0日=1,250,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:感染性の殺人衝動という怪異は黒沢清の『CURE』を想起させる。
ミステリーからホラーへのジャンルスイッチが物語の基底を為していて、そのため最大の長編になっている。前半のミステリーのパートは『金田一少年の事件簿』の『悲恋湖殺人事件』に近い。そうした事情で、犯人の動機にフォーカスしたところで、簡単に殺人を犯させる怪異が登場する。
裏バイトの依頼も怪異の関係ではない。
キレ者の探偵だが、お化けに耐性がない茶々が新登場する。
余談だが、横溝正史ミステリ大賞は日本ホラー小説大賞と統合された結果、ミステリーとホラーを合体した作品が受賞するようになった。そういうことではない気がするが… 一昨年のミステリーズ!新人賞受賞の『影踏亭の怪談』も、ミステリーとホラーのスリップストリームだ。
・第65話『映像編集』
【覗き魔】:画像・映像に映りこむ中年男。その画面を表示したまま目を離すと、画像・映像に引きこまれる。
「危険度:5」
「影響範囲:5」
【日給200,000円*出勤日数3.0日=600,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:1話完結でホラー、ルールの発見、オチがまとまっていて良い。
・第66-68話『農業手伝い』
【エヴァルス】:ある果樹園に自生する、食べたものの肉体を奪う果実。肉体を奪われたものは、サルのような生物に変身し、果樹園に放置される。変身後は、知能と体力もサルほどに退化する。
もともとは果樹園に迷いこんだものを犠牲にするだけだったが、織田ファームの経営者・織田慎司の肉体を奪い、流通機構に乗る。
「危険度:5」
「影響範囲:3→5」
【日給350,000円*出勤日数10.0日=3,500,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:寄生植物であり、変身の際、目から虹色の奔流が放射されることが、ロイコクロディウムを連想させる。
作者によれば、黒嶺の嗅覚が働かないのは、怪異ではなく、生態系の一部だかららしい。
もともとは小規模の怪異だったが、流通機構に乗ったことで、世界規模の災厄に悪化する。自由主義経済とグローバリゼーションの副作用と言える。
・第69-71話『探偵助手2』
【マダライツヅ様・依頼人】:4つの和室が入子状になった民家の2階。襖を開けた人間は壁の染みになって死ぬ。4人の人身御供を捧げると、世界を終末に導くマダライツヅ様が降誕する。
「危険度:5(9*?)」
「影響範囲:2(5*?)」
【日給200,000円*出勤日数1.0日=200,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:民家の見取り図を使用したホラー。明らかに不自然な間取りと、調査者そのものを目標にしているところが、先行作品に対する工夫になっている。
家モノから世界の終末に、話の規模が一転して大きくなることも変わっている。
『裏バイト』世界における序列は、
神・世界そのもの(次元)>怪異・「裏」関係者>裏バイト>一般人・単発の裏バイト>探偵
らしい(探偵は自分から死にに行くため)。
一応、調査で判明したこととしては、①終末思想を信奉する集団がいて、 ②ある民家で兄弟を相争わせ(曰く「蠱毒」)、 ③生きのこった兄弟を依代に、4人の人身御供を捧げ、終末を司るマダライツヅ様を降誕させる。 ということらしい。
4人目の探偵である茶々が脱出したことで、依頼人みずからが犠牲になり、マダライツヅ様が降誕する。失踪人の調査はただの口実で、依頼人は失踪人とはおそらく無関係。
戸建て住宅における陰謀と終末思想という道具立ては、佐藤佐吉監督の『黒い乙女A』『黒い乙女Q』を連想させる。
・第7巻
・第72-73話『気象観測』
【榊原平原上空】:榊原平原上空に存在する、異世界との端境。異世界はおそらく死後の世界で、榊原平原には自覚のない死者が出没する。虚空に巨大な「目」が浮いていて、目が合うと死ぬ。「目」は異世界を司る存在で、1000日以内に、異世界との扉が開くらしい。
「危険度:5→7」
「影響範囲:3→5」
【日給100,000円*出勤日数9.0日=900,000円】
「裏バイト生還率:90%」
備考:藍川所長(藍川正)は藍川気象観測所の研究員ともども、10年前に死亡。娘の藍川時子は白衣を着て、研究者らといるが、気象観測所は表向きで、Qの研究施設かもしれない。
・第75-76話『人材レンタル』
【解脱猫】:スマホに仕込める程度の大きさの招き猫。これを身に着けたまま他者を演じつづけると消滅する。
「危険度:1」
「影響範囲:1」
【日給100,000円*出勤日数24.0日=2,400,000円】
「裏バイト生還率:100%」
備考:
・怪異…危険性はほぼない。
・人材レンタルの仲介業者の宮崎(宮崎レンタル)…裏バイトを意図的に消滅させ、戸籍と財産を裏社会の人間に密売していた。当然、支払うはずの給与も着服していただろう。まさに小悪党だ。主役2人と大熊の抹消に失敗したことで、代わりに、愛人ともども裏社会の人間に抹殺される。
・人材レンタル…現代社会の病理。怪異ではない。愛情や友情を金で買うことはできない。むしろ、人間関係から金銭などの利害得失を除いたとき、まだそこにある残差を愛情や友情と言うべきだろう。人材レンタルを題材にした作品としては、岩井俊二の『リップヴァンウィンクルの花嫁』が印象深い。
・第77-79話『料亭スタッフ』
【小滝(おたき)】:料亭「琉馬」の「開かずの間」に入ったものを急死させる。入ったあと、体調不良と顔の斑痕(「死相」)という死徴が現れる。「開かずの間」は不特定であり、なかから「開けて」という声が聞こえることが徴候。
正体は大昔、料亭「琉馬」の跡目争いに巻きこまれ、逆吊りで刑死した奉公人「小滝」の怨霊。
「危険度:5」
「影響範囲:2」
【時給10,000円*出勤時間8.0時間*出勤日数2.0日=160.000円】(黒嶺。白浜は出勤日数3.0日)
「裏バイト生還率:90%」
備考:黒嶺の嗅覚が使えなくなる、シリーズにおける主役がピンチに陥る回。
対応法が明確。一方で、対応法を解明する八木探偵の有能さが光る。
・第80話『交通量調査員』
【赤刃(せきは)トンネルの特異車両】:毎年、特定の日にトンネル出口に現れる不気味な存在。見たものを恐怖で発狂させる。
「危険度:7」
「影響範囲:2」
【日給1,000,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:正体はひとびとの噂が実体化したもの。したがって、概念として定義付けることができれば消滅する。橙によって無害化。
失敗してもたかだか発狂するだけだが、おそらく橙しか成功できない。
・第81-83話『遺跡発掘調査補助員』
【異形人類・デザイナー】:人類の歴史をデザインする超越的な存在。人類は認識できない。異形人類の化石が発掘されたことで、発掘調査の関係者を再デザインする。
「危険度:1」
「影響範囲:5」
【-】(再デザインされた報酬は、時給10,000円*出勤時間8.0時間*出勤日数10.0日=800,000円)
「裏バイト生還率:90%」
備考:歴史が変わると、人間は歴史が変わったことにすら気づけないというタイムパラドックスと、人類の歴史そのものがグノーシス主義で言うところの偽神、すなわち創造神によって仮構されたものだというクトゥルフ神話的な恐怖が合体している。
デザイナーが再デザインしたことには、伊藤博文の暗殺と、おそらく卑弥呼の神権政治があるらしい。
主役2人が逃れられなかった2つの怪異の1つ。
再デザイン後は、前の世界の関係者は石像として地中に埋没される。その石像を発掘すると、前の世界の自分と意思疎通できる。また、そうして世界の真実を知ったことで、発狂することもあるらしい。
平川教授は、異形人類そのものがデザイナーなのではないかという仮説を立てていた。
平川教授の内心がアツい。
"〈だとしても、こんな上位種族はお呼びじゃない。〉"。
なお、関係者が最後まで科学と人間性を信じることも、ラヴクラフト作品にしばしば見られる特徴だ。
・第8巻
・第84-86話『工場作業員』
【スイッチ】:押すと、押したものの魂がわずかにキューブに転移される。
「危険度:1」
「影響範囲:1」
【誘引者】:見たものを惨殺する巨大な怪物。キューブに反応して出現した。
「危険度:7」
「影響範囲:2」
【時給20,000円*出勤時間5.0時間*出勤日数23.0日=2,300,000円】
「裏バイト生還率:75%」
備考:スイッチそのものの危険性は低い。ただし、勤続10数年で、顔がロボットのように見え、会話に違和感を覚えるほどに人間味が失われる。
たしかに、工場の単純作業は人間性を失う感覚がある。労働者1人当たり産業ロボット台数、ひいては設備投資の大きさは、経済的厚生の目安だ。
誘引者は見なければ襲われないというルールがあるが、キューブの完成日は、誘引者から犠牲者と目を合わせにくるため危険。
キューブを生産していた企業は、一応、正式なものらしい。キューブはアンドロイドが人間らしい動作をするために使用する。工場労働者が単純作業で人間性を摩耗する一方、企業は産業ロボットでなく、クソくだらない感情労働をするアンドロイドを生産するという寓話なのかもしれない。
・第87-89話『ベビーシッター』
【赤ん坊の体をのっとったオッサン】:黒魔術をかじったオッサンが、生まれ変わりをすべく、赤ん坊の体をのっとる。悪魔に2人の魂を捧げるため、ベビーシッターたちを殺そうとする。
「危険度:3」
「影響範囲:2」
【日給20,000円*出勤日数4.0日+特別ボーナス500,000円】(依頼そのものは「表」のもの)
「裏バイト生還率:80%」
備考:『ローズマリーの赤ちゃん』(68)、『グレムリン』(84)、『チャイルド・プレイ』(88)と、アメリカ産ホラー映画を思わせる回。
そのため、アメリカ映画らしくハッピーエンドだ(ハッピーエンド!?)。
怪異はオッサンが入っただけの赤ん坊のため、事情を知っていればそれほど危険ではない。
グレアム=スミスの『ホラー映画で殺されない方法』が「動きまわる人形」について曰く、「腕力に任せろ。あなたが12歳でも、襲撃者の7倍は大きい。やつらが計略を巡らせるのには理由がある」。
ついでに、『ホラー映画で殺されない方法』からベビーシッターのバイトについて引用しよう。
「あなたが高校生活でしてはいけないこと ④放課後の誘いに乗る。《今夜、私がベビーシッターのバイトをしてるときに遊びに来ない?》。やめておけ。自宅で包丁のジャグリングでもしていたほうがマシだ(そのほうが安全だから)」
「ベビーシッターのバイトを断るべきとき ①頼まれたとき ②自宅から2ブロック以上離れているとき(叫び声が聞こえるか、走って帰れること) ③天気予報で嵐が来そうなとき ④子供に障害があるとき(特殊能力もある) ⑤逃亡した○○がまだ捕まっていないとき ⑥その他:雇主が電話に出なかったとき、帰るのに合意した時刻から60秒経ったときは、家から逃げだしていい」
「ベビーシッターのバイトでしてはいけないこと ①無責任なことをしない a. 恋人をその家に呼ばない b. 酒のキャビネットを漁らない c. 親たちのエロビデオを漁らない d. その家の電話で友人たちと長話しない ②絶対に電話に出ない:かけたのは殺人者で、しかもその家の別の部屋からかけれている ③好奇心にかられない a. 鍵をかけたはずの窓がガタガタ鳴っている:鍵はかかっているから確かめようとするな b. 子供たちが見当たらない:子供たちの名前を大声で呼びながら探しまわらない c. 誰かが玄関をノックし、事故を通報したいから電話を借りたいと言っても、おそるおそるドアを開けたりしない」
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