ドラマ版『コールミー・バイ・ノーネーム』最高でした!
映像化作品は原則として原作を推すほうなのですが、『コルミノ』については未見未読のかたにはドラマ版を薦めます。原作を評価した上でです。このような作品は他に映画版『リング』くらいです。
なので、気になって原作とドラマ版の異同を確認しました。まとめましたので、よければ参考にしてください。
原作は全4章にプロローグとエピローグです。
プロローグは出会い、第1章は賭けとおうちデート、第2章はデートと愛の過去、3章は深まる関係と天の襲来、4章は別れと真相解明、賭けの決着、エピローグは後日談、という構成です。
ドラマ版の全8話はプロローグと1章を1ー2話、2章を3ー4話、3章を5ー6話、4章を7話に、ほぼ原作ママで再構成しています。2話のアイドルが主演の低予算ドラマっぽい(すみません)おうちデートのシークエンスも原作ママです。
ただし、8話はほぼオリジナルです。原作は賭けの決着で物語が終わり、あとは後日談だけですが、ドラマ版は愛と琴葉があらためて対決しています。
以下、まとめです。
原作の区切りを赤、ドラマ版の区切りを青で表示しています。
◯エピグラフ
・原作では鮎川信夫の『紫檀』からエピグラフを掲げています。
これくらいカッコいいエピグラフは、他にホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』と伊藤計劃の『虐殺器官』くらいですね。
◯プロローグ
◇1話
・「女同士でも法定強姦罪は成立するから!」「(間)詳しいんだね」のセリフを追加。
伏線!
原作でも真相解明のあとで触れています。文章だとさすがに露骨ですからね。
・愛を文学部ロシア文学科から法学部に変更。
全体的に法律関係の話が即座に展開できるようになっています。
◯1章
・一般教養の「国際社会論」を「世界古典文学論Ⅰ」に変更。
全編で『千夜一夜物語』を背景音として流せるようになっています。
文学部不要論の論者に見せたいですね。文学部がなければ恋愛ドラマで自然に文学を引用することもできません。
・早苗と未希が親友で、束が友人という関係を、早苗と束が親友に変更。
名塚未希…! お前の尊い犠牲はドラマ版『コルミノ』として実を結び、ムダにはならなかったぞ…!
◇2話
・束の恋愛上級者アドバイスその1。これは原作ママだが、4話の追加点への布石に。
『キネマ探偵カレイドミステリー』のマルチバースの下りは当然、省略。
・レンタルビデオ店での少年の万引き未遂を、雑貨店での酒類にして簡略化。
・権利許諾の関係で、ミヒャエル・ハネケの『ハッピーエンド』を架空の映画の『静かな食卓』に変更。
内容は『ハッピーエンド』そのまま。ということは、ドラマ版『コルミノ』の世界には『ハッピーエンド』みたいな映画が2本もあるのか。嫌な世界だな…
ちなみに、原作には『500ページの夢の束』らしい映画も登場しています。自閉症を題材にした低予算映画だと、感心できないものもあるのですが、これは良作です。
◯2章
◇3話
・池袋のサンシャイン水族館から水道橋の後楽園遊園地という地下鉄丸ノ内線沿いのデートコースを、江ノ島水族館と海岸に一本化。
・当然、全編で水族館は江ノ島水族館に変更。
・水道橋の橋上でネコを助けようとした少女を救出する状況を、海に流されたぬいぐるみを回収するものに変更。
おかげで愛と琴葉の対話が海辺と水中で迫力のあるものに。
私事ですが、「原作を読んで、先の展開を知ってるしな」と余裕でかまえていたのが、このあたりから居住まいを正して見るようになりました。ありがとう江ノ島の海…! あるいは、地球温暖化で東京が水没してくれてもいい…!
◇4話
・愛の回想を簡略化。早苗の存在を重点化。
・「琴葉が私を見つけてくれた」「琴葉と会ってから少しだけ自分のことを好きになれた。人からどう思われても気にならないくらいに」のセリフを追加。
賭けの決着への伏線。
これは妙技!
◯3章
・琴葉が理工学部でも数学科だということを省略。原作で琴葉が数学科を選択したのは「数学の言葉には美か沈黙かしかないから」。例えば、ロシア文学は異なる。
原作ではこれが賭けの決着への布石になっています。
怯える琴葉に、愛が「どの定理だって誰かが証明したんだろ! どんな未解決問題だって私が証明してやるよ!」と啖呵を切ります。
私は『博士の愛した数式』の世代ですから、数学の例えは分かりやすいですね。
ドラマ版ではこれを結婚の公的証明に変更しています。
・束の恋愛上級者アドバイスその2を追加。
・村田のノンデリ発言をヘタレのイキリにして雰囲気を変更。
◇5話
◇6話
・オープニングで「そのとき見た彼女はぞっとするくらいきれいだった」のモノローグ。
原作は間接話法で愛の複雑な心理が語られているが、不安と戦慄を1つのモノローグに要約。
これは妙技!
・セリフで暴行であることを明確化。
・琴葉の視点を重点化。とくに視覚効果。8話の布石に。
私事ですが、原作ではここの琴葉のセリフが一番好きです。
"「アンタのことメグちって呼ぶんはな、半分こにしたろと思ったからなんよ」……「愛と書いてめぐみなら、メグと呼んで半分こやろ? アンタの愛を引き裂いたろーって」……「だって、名前から愛に満ちてるなんてずるいもん。だから、せめてもの抵抗」……「でもな、メグち。愛の、心の部分は上にあったんよ。ウチが選んだメグの中に」"(p.180)
見事!
・指輪交換の舞台を歩道橋上に変更。8話の布石に。
・「法的には結婚できない」のセリフを追加。同上。
・「夜が怖い」のセリフを追加。
原作では前半の「雷が怖い」の伏線(p.145)。
◯4章
・別れ話のときの「はじめは憎かった。いまは苦しい」の、琴葉の心情の吐露を省略。
◇7話
・束の人生相談を追加。
・村田との会話を追加。
・天との対決を追加。
天は邪悪!
児童に対する性犯罪者の邪悪さを知るには、ネージュ・シンノの『悲しき虎』がいいかもしれません。「弁護士には父の自白がなければ有罪にはならなかっただろうと言われた。父は法廷ですべてを自白した。陪審員が自分に同情するだろうと思っていたのだ」。邪悪!
・旭による真相解明はすべて省略。
原作は愛の主観視点だから、旭という解説役が必要だった。
◇8話
原作のエピローグを除き、ほぼオリジナル。
・琴葉の視点から全編を回想。
・琴葉の早苗との対話。
・琴葉の村田との対話。愛に頼まれてボディガードをする村田。
村田、お前ってやつは…! ヘタレなのに…!
・歩道橋上で愛と琴葉が対決。
"「ウチ、怖いよ、メグち」「何が?」「ウチはきっと、いつかメグちを傷つける」「そんなことない!」「そうなの! だってウチはそういう愛情しか知らない!」"
このダイアローグはあまりにも見事!
原作は小説で呪いと祈り、受苦と救済のもつれを地の文で表現していますが、ドラマ版もその主題を継いでいます。
・"「琴葉は私を好きなんだよ」"
ヒューッ!
原作の賭けの決着での"「……でも、私に宿命があったとしたら、それは君だった」"(p.228)の決めゼリフもなかなかです。
原作では琴葉の不義密通は代償行為だったけれど、それはそれで代償されていたというくだりがあって、このあたりの斜線堂有紀先生の現実感は好きです。
・結婚として愛を証明できるか、あらためて賭け。
◯エピローグ
・後日談を江ノ島デートに変更。
原作の末文も見事。
"
久しぶりにしたキスは懐かしいグロスの感触がした。
古橋琴葉の味がした。"
で、エンドマーク(p.235)。