小説

青崎有吾著『加速してゆく』の時系列について

青崎有吾著『加速してゆく』は21世紀最初の四半世紀で日本の短編推理小説の最高傑作でありえた。 仮定法なのは、作中の2つの出来事の先後関係を逆にしているからだ。 つまり、現実の出来事に対し、虚構の出来事を後にすることで、後者が前者に本質的な関係を…

若島正の戦後アメリカ小説100冊

・若島正『乱視読者の新冒険』「戦後アメリカ小説の百冊」より(初出:『英語青年』1998年8月号)。 ・凡例:並びは発表年順(出典どおり)。未訳は原題に若島による仮題を付記。複数訳は出典に従う。 1.個人的ベスト・テン 2.一般的ベスト・テン 3.超…

『恋に至る病』の解釈を確定できる4つの理由

斜線堂有紀の「からかい上手の高木さん(シリアルキラー)」こと『恋に至る病』の劇場版が公開されます。 作中でも検索エンジン最適化(SEO)の話題が出てきますが、いまさら新しい記事を書いても、「恋に至る病 考察」などの検索ワードで上位に表示されるこ…

メタSFとしてのSF - グレッグ・イーガン『万物理論』 -

『万物理論』はイーガンの代表作です。 ですが、イーガンの筆歴でもっとも地味な作品でもあります。物語のシチュエーションは、科学ジャーナリストがアインシュタイン没後100周年を記念した国際理論物理学者会議の取材に行くというものです。地味すぎます。 …

はやみねかおるの隠れた代表作『復活!!虹北学園文芸部』

※ネタバレ注意 はやみねかおるのノンシリーズの代表作は何でしょう。 『ぼくと未来屋の夏』、『僕と先輩のマジカル・ライフ』というミステリーの他に、『復活!!虹北学園文芸部』という作品があります。 『復活!!虹北学園文芸部』はいわゆる「八犬伝」の物語…

『夜のみだらな鳥』にありがちな誤解

ホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』は「グロテスク」や「難解」と形容されることが多いです。 作品を宣伝するときは、扇情主義のため、誇張表現を使いがちです。 ですが、実際に作品を鑑賞するときは、そうした粉飾だけに注意すると、鑑賞体験は貧しいものに…

推理小説とラブロマンス、ミステリとラブコメ、そして『冬期限定ボンボンショコラ事件』

※『トレント最後の事件』と『第八の地獄』、『毒入りチョコレート事件』と『最上階の殺人』、『虚無への供物』のネタバレ注意。 ※『SHERLOCK』の『ベルグレービアの醜聞』、『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影』、『別れる決心』、「小市民」シリーズの深刻な…

ニール・スティーヴンスン『クリプトノミコン』あらすじ・要約

○前書 「読んでいないのに堂々と語られているSFの十大小説」というリストがあり、『クリプトノミコン』『デューン』『重力の虹』『ファウンデーション』『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル』『1984』『最後にして最初の人類』『長い明日』『ダール…

アポカリプス・ナウナウ - 終末モノの映画・小説・マンガ案内 -

"本書はみなさんに、世界が崩壊寸前にあることを、証拠をそろえて提示した。これを読んだ読者の大半はおそらく、それまでの考えを一変させ、世界の終わりが近いことを信じるようになったと思う。そうして……それだけだ。この問題に見合う行動は、個人的なもの…

『雪が白いとき、かつそのときに限り』の語りについて 幻滅と幻影 - リウィウス、マキャベリ、陸秋槎 -

(※本稿は『雪が白いとき、かつそのときに限り』の犯人、犯行方法、動機に関する深刻なネタバレを含む。よって、本書を未読のものが読むことを禁ずる。) 陸秋槎の『雪が白いとき、かつそのときに限り』(稲村文吾訳、2019年、早川書房)は、2017年に中国、…

私選:洒落怖・怖い話・ホラー映画

・ホラーの2つの問題 いわゆるホラーというジャンルには、質によって性格の異なる2種が存在する。これがホラーの第1の問題だ。例えば稲川淳二の怪談と、伊集院光の怪談だ。稲川淳二の怪談はしめやかに怖く、語りにより涼感を得ることができる。伊集院光の…

『"文学少女"』シリーズの卓越した構成

野村美月の『"文学少女"』シリーズは全7作(全8巻)、本編完結後に出版された外伝が8作(巻数同じ)の構成だ。 第1巻および第8巻の後書きによると、本作は野村の持込み企画だったらしい。そして、第7巻の後書きによると、全7作の構成は企画の通りだっ…

『いでおろーぐ!』全7巻感想

椎名十三著『いでおろーぐ!』全7巻が思いがけない佳作だったため、感想をしるす。 第1巻のおおまかな内容は2つある。第1に、いわゆる「非モテ」による共産主義と、かつての学生運動、現代の共産主義の学生団体のパロディだ。第2に、アンチラブコメのラ…