スコット・マクラウド『THE SCULPTOR』あらすじ・感想メモ


 批評と実作は車の両輪だ。しかし、マンガは実績のある作家による批評、解説書が乏しい(お分かりのとおり、暗に既存の批評、解説書を批判している)。
 スコット・マクラウドの『マンガ学』は、例外的な秀逸なマンガの解説書だ。しかし、批評と実作は相補的なものだ。なので、未邦訳の実作『THE SCULPTOR』を読んだ。面白かった。
 ニール・ゲイマンの「数年に1度の傑作」は言いすぎにしろ、年間傑作選にはかならず入選する出来だった。
 400ページ超のハードカバーで、邦訳されるとも思えないので、備忘用にあらすじと感想をメモ。

・オープニング

 朝、ベッドで傍らにいる女性が囁く。「準備はいい?(READY?)」
 今にも地面に激突しそうな1人の青年。
 ふたたび女性。「じゃあ、話して」

・1.THE OTHER DAVID SMITH

 ダイナーで泥酔する青年(オープニングの青年)DAVID SMITH。偶然、彼の大叔父HURRYがDAVIDに気づく。
 DAVIDは彫刻家で、大学時代、起業家DONALDOSONの後援を受け、名声を得たが、6ヶ月前に支援を打切られたらしい。残金も、このダイナーの支払いをすればなくなる。おまけに、そのときのいざこざが原因でロシアン・マフィアに睨まれていた。
 HURRYはDAVIDに1冊の冊子を見せる。『SUPER FAMILY』。DAVIDが9歳のときに描いた漫画で、母を「PAIN-TER」、妹スージーを「GENIUS GIRL」、自分を「SUPER SCULPTOR」、父を「OTHER MAN」というスーパーヒーローに描いていた。「OTHER MAN」は誤字で、「AUTHOR MAN」のつもりだった。DAVIDの家族は芸術一家だった。
 たまたまウェイトレスが夜学の芸術コースに通っていて、DAVIDに気づく。「DAVID SMITH? 聞いたことがある。私の講師が敬愛してるって」が、DAVIDは絶叫。「それは20世紀の名彫刻家のDAVID SMITHだ! 僕はOTHER DAVID SMITHなんだよ!」
 誕生日、26歳。職もなく、金もなく、彫刻家の夢も失い、DAVIDは打ちひしがれていた。せめて、ダイナーの支払いをするというHURRYをDAVIDは固辞。DAVIDは誰とも貸借りを作らないという誓約(PROMISE)を自分に設けていた。
 そのとき、DAVIDは気づく。「そうそう。最後にあんたに会ったとき、あんたは…」「…死んでいた」
 HURRYはDAVIDの未来を語る。DAVIDは今は打ちひしがれているが、そのうちコミュニティ・カレッジの教職を得て、1人の女性と出会う。結婚し、家と、2人の息子、黄色のラブラドール、ミニバンを得る。それでもDAVIDは地下室で自分のためだけに芸術を続ける。しばらくの間は… 「やめろ…」やがて老い、過去の記憶に耽るようになり、周囲の物事が分からなくなってゆく。そして死ぬ。「やめてくれ!」「ああ。家族と愛については省略したぞ。些細なことだからな」「芸術がお前に何を与えてくれた? DAVID」「人生だ。人生を与えてくれた」「そうか。なら、お前に1つのものを見せよう」
 DAVIDは骸骨の手に触られ、絶叫する。見開き1ページの白紙。「意識は《無》それ自体を認識できない。だから、すこし手助けしてやった」「これを見ても、まだ同じことが言えるか?」青色吐息になったあと、DAVIDはまた同じことを言う。「芸術は人生を与えてくれた」
 夜明けを迎えていた。店を出たHURRYは言う。「朝日が昇るとき、お前は望みを叶えるだろう」「望み?」「そして、200日後に死ぬ」
 DAVIDの記憶は徐々に蘇る。父、母、そして下半身不随の妹は次々に死に、DAVIDは今は天涯孤独だった。
 蹌踉としてニューヨークの街を歩いていると、DAVIDの周囲を通行人たちが一斉に囲み、拝跪する。そして羽の生えた少女が降りてくる。黒髪、そばかす、ヤンキースのベースボールシャツで、羽が生えていること以外、まったく天使らしくない少女だ(表紙、オープニングの女性)。「きっとすべてうまくいくから」そう囁き、少女はDAVIDにキスをした。ハトが羽ばたき、気づくと街は元通りになっていた。
 呆然とするまま、友人のOLIVERと、ギャラリーのオーナー「ミス・ハンマー」ことPENELOPEに会う。PENELOPEはニコニコおばさんで、DAVIDは適当な応対をする。しかも、ギャラリーにあったDJランスの顔が大量に突出する彫刻を「感想ですか… 金持ち息子の道楽で、金をドブに捨てているように見えますね」と酷評。そこに、OLIVERと親しい仲のFINNが現れる。しかも、FINNはDJランスの彫刻の作者だった。「本当に申訳ない… 誰であれ、他の芸術家を中傷する権利はなかった」「なんでだよ? 事実を言っただけだろ? それに、あれはどうせ習作さ」OLIVERはDAVIDに今後の計画を尋ねるが、彫刻の材質を石材から金属にしたいと言われ、再考を促すことしかできなかった。
 しょぼくれるDAVIDをOLIVERとFINNはパーティーに連れていく。「僕がこういう場が嫌いなことは知ってるだろ」「いいか、DAVID。ここで芸術科専攻の知合いをつくれ。《かわいい》《女の子の》知合いだぞ!」パーティー会場に残され、不機嫌に飲酒するDAVIDだったが、愕然とする。そこに天使の少女がいた。
 呆然と少女を追いかけるが、様子がおかしい。DAVIDは陽気な集団に囲まれる。「あれ、よくここが分かったな?」跪く通行人たち、空から降りてくる天使の少女、キス。そのすべては特撮によるパフォーマンス・アートだった。「この動画なら100万再生も確実だな」美術担当の若者が言う。「ニーソックスは好き? いや、僕はニーソックスが良かったんだけどね。オタクっぽすぎるって反対されちゃってね」DAVIDは嘔吐。暴れ、会場を追いだされる。
 路地裏で1人、沈んでいると、たまたま天使の役者の少女、MEGが通りかかる。MEGとDAVIDは簡単な謝罪と和解をする。「そういえば、あのとき僕に言ったことは何だったんだい?」「もし、私が悲しかったら言ってほしい言葉」「嘘でも?」「信じてないなら、言わなかったよ」「待って、あのときのことを謝りたい!」「何?」「あのとき酔ってたから、キスしたとき、僕の息が酒臭かったんじゃないかと思って…」「気づかなかったよ。一瞬だったからね」
 失意のうちに、夜の街を彷徨するDAVID。夜明け、橋上でDAVIDはつっ伏す。が、そのときDAVIDは橋にくっきりと自分の手形が写っていることに気づく。
 DAVIDはあらゆる材料を自由に変形するスーパーパワーを手にしていた。HURRYの言葉が蘇る。有頂天になり、さまざまな彫刻を試作するDAVID。が、そこにHURRYが現れる。「あと200日だ」

・2.ALL OR NOTHING

 公園でチェスをしながらDAVIDとHURRYは語らう(今後も、説明パートはこの形式)。あれから6週間が経過していた。
 HURRYは簡単に自己の存在を説明する。「あのレッドソックスの帽子を被っている男… 今日、死ぬぞ」「レッドソックスの帽子のせいで?」「真面目な話だ」そして、HURRYは男の半生を事細かに説明する。「分かった。もうやめてくれ」
 DAVIDは有頂天だった。この日、DAVIDは作品を専門家たちに紹介するつもりだった。まずOLIVERがDAVIDの元を訪れる。そこには、大量の彫刻でDAVIDの半生が細大漏らさず再現されていた。そこには、亡き妹の彫刻もあった。「DAVID。これはひとに見せちゃいけない。いや、誰1人、ここにあるものは理解できない」
 それでもDAVIDは作品の紹介を強行し、批評家たちに酷評されて終わった。とくに美術評論家のBECKERは辛辣だった。
 失意に打ちひしがれるDAVID。おまけに、OLIVERはFINNとサマーハウスに海外旅行に行ってしまう。DAVIDはOLIVERにパーティー会場でFINNの浮気の現場を見たと訴えるが、逆に頭を冷やせと怒られてしまう。
 アトリエに帰ると、ロシアン・マフィアが待伏せしていた。あまりにも大量の彫刻の重量で床が抜けたらしい。ロシアン・マフィアたちはDAVIDを痛めつけ、借金を支払うまで彫刻は預かると脅した。「あのガラクタ(JUNK)は預かった」「ガラクタか… 当たってるよ」
 呆然と夜の街をさまよううちに、DAVIDは建物の倒壊現場を見つける。そこには、レッドソックスの帽子が落ちていた…
 失意のなか、DAVIDは亡父の言葉を思いだす。「人生でどうしても必要になったときは、この名前を頼れ」「DAVID SMITH」図書館で電話帳を借りたDAVIDが見たものは、無数に連なる「DAVID SMITH」の同姓同名だった…
 ついにDAVIDは地下鉄に飛びこもうとする。そのDAVIDを、誰かが背中から止めた。

・3.THE PROMISE

 DAVIDを助けたのは、MEGとMEGの元カレのMARCOSだった。目覚めてボーッとするDAVIDはMEGに言う「愛してる」。ビンタ。
 MEGはルームメイトのSAMと2人暮しの下宿にDAVIDを住まわせ、介抱する。
 MEGの支援でDAVIDは徐々に社会復帰する。が、MEGはDAVIDに釘を刺す。「決して私に《愛してる》と言わないこと」「あなたは私と天使を同一視してる。でもそうじゃない、分かった?」。MEGは先日のパフォーマンス・アートのディレクターのMIKEYと交際していた。
 DAVIDの居候は続く。MEGは若手の役者で、自転車便のメッセンジャーのバイトをしていた。交通事故の多い仕事で、MEGは危険を好んでいた。
 DAVIDはOLIVER、MEGとともに子供時代に影響を受けたモデラーを訪ねたり、MEGと美術館に行ったりして、芸術と格闘する。そんなDAVIDにHURRYは釘を刺す。「お前、あの娘と付きあいたがっているだろう」「僕がMEGと? ありえないよ」「だがお前はそれを望んでるんじゃないか?」「忘れるな。お前が彼女と付きあうことは、彼女に喪失を経験させることだぞ」
 DAVIDが頑なに貸借りを拒むことに、ついにMEGは問いただし、DAVIDは「36の約束」を自分に設けていることを話す。様々な誓約「それから、2度と絶対にスウェーデン人監督の映画を観に行かない…」「なんで?」「長い話なんだ」。「まあ、1番目の前、最初の約束は父さんとしたことで、決して自分でした約束は破らないってことなんだけど」
 ホームパーティーの最中、MEGは電話越しにMIKEYと破局。MEGは屋上に上がり、DAVIDは追いかける。「本で読んだんだけど、彫刻は石材のなかから本物の姿を見つけて削りだすんだって」「この本のこと? 対象年齢は10歳だけど」「あなたのことを知った友達が置いていったの」。「近年、新しい方法論ができた。ジャコメッティがワイヤーの骨組みに、金属で肉付けする方法を考案したんだ」「とり去る代わりに足したわけね」「そうとも言える」。「あなたは私をとり巻く大気をすべて削れば、私を見つけることができると思ってる。でも、それは私じゃない。私は彫ったり削ったりするんじゃなくて、私がそうある人間に足していきたいの」「ジャコメッティみたいにか」「このやり方なら痩せて見えるしね(ジャコメッティの彫刻の図版)」。「もう、約束は終わり。私はあなたを愛してる。次は、あなたの番だよ」「……」「…DAVID?」DAVIDの脳裏にHURRYに言われた言葉が去来する。「もうあの言葉を言っていいの。言って」。DAVIDはMEGにキスをする。勢いあまって、屋上から落ちかける2人。「僕たちは死んでしまう!」「大丈夫、大丈夫だよ」「僕たちは死んでしまう!」、「触って、DAVID。心臓がすごい打ってる。削岩機(JACKHAMMER)みたい…」
「あなたは生きてる」
 一方、DAVIDとOLIVERは、OLIVERがDAVIDの要求に応えられない上、FINNとの関係で険悪に。「僕には時間がないんだ!」。「FINNは君を利用してるんだ。そう言ってるだろ!」「そんな単純じゃないんだ」「そんな単純じゃない? …まさか。君たちはたがいに利用しあっていた」「そんな単純じゃないと言ったはずだ」。DAVIDとOLIVERは喧嘩別れをする。
 MEGは突如として情緒不安定になり、DAVIDを遠ざけようとする。DAVIDは混乱するが、付合いの古いSAMとMARCOSはMEGのことを理解していた。「みんな私の前からいなくなる。あなたもきっといなくなる」。「僕はいろいろなことを知っている。けど、今それは問題じゃない」「なにが正しいか、なにが賢明か。なにが君にとっていいか、僕にとっていいかも問題じゃない」「もしこの街全部が僕たちの耳の周りで崩れ落ちるとしても、決してそうはさせない」「約束する」

・4.DEADLINE

 季節は冬。DAVIDはFINNのDJランスの彫刻を改造して、一泡吹かせたりしていた。FINNはOLIVERを捨てていた。HURRYは渋い顔で忠告する。「そうだ。専門的な話をすると、お前は死ぬ前に家族ともう1度会うことができるぞ」「なんだって?」「走馬灯だよ」
 DAVIDはMEGと初体験を迎える。「い、いや、僕にも男女交際の経験はあるよ。複数回の経験がね!」
 OLIVERと喧嘩別れしたことで、ギャラリーへの伝手がなくなったDAVIDは、ニューヨークの街中をギャラリーとすることに決める。「『ニューヨーク・タイムズ』を見なければ、言葉で説明してもピンとこないと思ってね。《一夜像》でググってみなよ」「グーグルなんぞ知るか。こりゃ『ニューヨーク・タイムズ』だぞ! 2面だ!」。DAVIDは夜間にビル大の巨大な彫刻を創造していた。「街中の注目を集めたな。で、次はどうするんだ?」「それは…」「……」
 顔を能力で変形。盗難車(能力で鍵を複製)を使用。ステップ1:警備を封鎖。ステップ2:40秒で建材を用意。ステップ3:3分で基礎を成形。ステップ4:5分で仕上げ。「見たか、SCULPTORの新作」「リアル《プロジェクト・メイヘム》だよな!」
 残り51日、DAVIDはまだ芸術と格闘していた。一方、警察の包囲網は徐々に狭まっていた。美術評論家BECKERはテレビのインタビューで「SCULPTORの作品は最近、失踪した若手彫刻家と作風が酷似している。我々はすでに警察にそのことを通報した」と語っていた。ニュース番組を見てDAVIDは愕然とする。SCULPTOR事件の捜査担当者の名前はDAVID SMITH刑事だった。
 残り26日、DAVIDはMEGと喧嘩別れする。MEGが介抱するために招いたホームレスを、DAVIDがそうと知らずに追いだしたためだ。「間違ってる。どうかしてるぞ!」「それはあなたを拾ったときにSAMが言ったことだよ!それでも間違いだって言うの!?」「そうだよ… 間違いだった!」「…間違いだったんだ」
 残り24日、DAVIDは長期旅行中の家を借り、とうとう独居する。

・5.THE ART OF DYING

 残り15日。MEGが訪ねてくる。「私は医者に子供はできない体だって言われてたの。MARCOSとも、それで別れたのね」「だから、あんたとするときも避妊はしてこなかったの」「……」「…!?」。DAVIDはMEGに能力を見せ、今までの経緯を説明する。「それで、残り15日の命!?」「ああ… いや。残り12日になったみたいだ。秘密を話したペナルティでね」。「あんたの今までの奇行もそれが原因!? もうすぐ死ぬから!? 私のことを、あんたの世話なしで生きていけない繊細なお花とでも思ってたの!?」ひとしきり怒りをぶちまけたあと、MEGはすすり泣く。
 残された日々をDAVIDとMEGは大事に過ごす。
 残り7日。MEGは闘病中の恩師のもとを訪ねる。恩師は死にかけていた。1人にしてほしいと言われ、DAVIDは久しぶりに1人の時間を過ごす。静寂のなか、DAVIDは死への心構えができたと思ったが、夜になりMEGに「死にたくない」と泣きつく。
 残り5日。DAVIDとMEGはフェミニストのヌード・デモに遭遇。宗教的狂信者の老人がデモ隊に怒鳴りはじめ、割って入った母親の赤子をMEGが預かる。赤子をあやすMEGを見て、DAVIDは感慨を覚えた。
 残り4日。MEGがOLIVERを連れてくる。DAVIDとOLIVERは和解。ワインを飲みながら、昔の写真を見てDAVIDとOLIVER、MEGは語らう。「父さんだ…」「死んだお父さん?」「うん。このときはすごい年長に思ったのに、今見ると全然、年をとってないな」。OLIVERからDJランスの彫刻の顛末を聞く。DONALDSONが彫刻を17万ドルで落札。しかも、FINNとDAVIDの合作として扱われ、今、DAVIDは斯界で高評価され、しかも事実上、SCULPTORと同一視されていた。OLIVERがワインを飲むために持ってきたグラスはFINNの秘蔵品らしい。「FINNとの関係は?」「まだ複雑なんだ」。「DAVID、カム・バックを約束するぞ」「また週末に会えないか?」「忙しくてな。来週はどうだ?」「… そうだな。来週に」。「愛してるよ、OLIVER。…性的な意味合いは抜きにね」
 その夜、OLIVERの紹介でDAVIDはPENELOPEの元をふたたび訪れる。「今でこそバカだったと分かるけど、僕は芸術で世界が変えられると思ってた」「芸術は世界を変えられますよ。ただし、ゆっくり… とてもゆっくりとね」
 残り3日。DAVIDはMEGに球体の彫刻を見せる。これが、ひとまずのDAVIDの芸術の解答だった。HURRYが2人の元を訪れる。「あなたがHURRYね」「ワシも、お前さんのことは知っておるよ」「おい、どういう意味だ」「妻が死んだあと、古い映画を観て時間を潰すようになってな。とくに、名画座で」「私、そこでモギリと案内をしてた!」「あのときの帽子のお嬢さんは、君じゃなかったかな」「まったく、驚かすなよ!」。MEGが買物に出かけ、DAVIDとHURRYは最後のチェスの対戦をする。「分かったよ、HURRY。昔から、ひととひととは鎖の輪のように繋がってきた。けど、それは《不滅》なんかじゃなくて。生命は川の流れのごとく、そして流れは毎日続いている。だろ?」。「DAVID。ワシは名画座に行ったことなどないよ」「は?」「彼女とは、また10分後に会う予約をしておる」「予約…?」。DAVIDは血相を変える。同時にドアが激しく叩かれる「開けろ! 警察だ!」。警官隊を退け、MEGを探すDAVID。すでにMEGは轢死していた。「彼女が急に飛びだしてきて…」「分かってる。彼女は… 不注意だった」。DAVID SMITH刑事と警官隊に銃口を向けられ、DAVIDはMEGの死体を抱えて能力で地下に逃げる。
 出現したHURRYをDAVIDは問詰する。「定めだよ」「ワシはもう無くなる。お前がもう死ぬからだ」。
 豪雨のなか、DAVIDは能力で鉄塔に登攀する。豪雨に晒されながら、DAVIDは鉄塔を変形する。向かいのビルにSWAT(ニューヨーク市警なのでESU)を引連れたDAVID SMITH刑事がいて、DAVIDに警告する。「どうして僕のことが分かった!」「君の友人の恋人が、彼を尾行していた! 彼の提出したグラスについた指紋と、SCULPTORの指紋が一致した!」「嘘だ! 僕は作品に指紋を残さなかった!」「最初の作品だよ!」「最初…?」「橋だ!」。「はやく投降するんだ! その鉄塔は、すぐ鉄屑(JUNK)になるぞ!」「鉄屑か… 誰もが批評家だな」。「刑事さん! あなたの名前は!」「君と同姓同名のDAVID SMITHだ!」「じゃあ、あんたはOTHER DAVID SMITHってわけだ!」。「家族はいるか!」「ああ! 妻と、8歳と10歳の娘がいる!」。DAVIDはDAVID SMITH刑事、SWATの前に能力で降りる。「全員、5分以内にここから離れるんだ!」
 警察と見物人は退避。雨と霧で視界は閉ざされる。「あの青年、生きて帰れますかね」「さあな。ニューヨーク市警は白人のセレブを撃つのが大好きだしな」。とうとう、狙撃隊の誰かが発砲して、DAVIDは落下する。オープニングの場面。DAVIDの脳裏に走馬灯が過ぎる。地面に激突する直前で、永遠に引延ばされる落下。その日の朝のこと。ベッドでMEGが囁く。「ねえ。なにか秘密を教えてよ」「僕たちだけが知っている秘密は、僕たちが死ぬと同時に消滅する… 不思議な感覚だ」「じゃあ、話して」「私の耳に囁いて」。激突。
 やがて、朝になり、雨と霧が晴れて見物人たちは呆然とする。そこには、摩天楼ほどの大きさの、赤子を抱きあげるMEGの巨大な彫刻が完成していた。
 巡査がDAVID SMITH刑事に言う。「笑い話なんですがね。CBSが、《あなたが》死んだと報道しているそうですよ」「笑えない。CNNが正しい報道をするだろうがな」、「ボス。妻に電話してもいいですか。誤報を見て心配しているといけないので」「私用電話は後にしろ」。無視して電話をかけるDAVID SMITH刑事。《よかった。DAVID。無事なのね》
《あなたは生きてる》(完)

(感想:もっとも面白いのは第1章で、まったく予想のつかないストーリー展開だった。その後はわりと順当に推移。しかし、MEGが妊娠して、再生産での永遠性という安直なところに落着すると見せて、MEGが死ぬあたり、巧みなストーリー・テリングだった。『マンガ学』で見たとおりの知的さだ。含意もなかなか。コマ割りの文体が3つのあいだで変わって、『グランド・ブタペスト・ホテル』を連想した(画面サイズが3つのあいだで変わる)。)